メニュー

【2025年版】便秘治療のすべて|日本消化器病学会ガイドラインを徹底解説

[2025.06.02]

便秘とは?|定義・種類・発症メカニズムをわかりやすく解説

便秘に悩む人は非常に多く、日本人の約1,000万人が慢性的な便秘症に苦しんでいるといわれています(日本消化器病学会より)。
しかし、「便秘」とは何か? その定義や種類を正しく理解している方は意外と少ないのではないでしょうか。

本記事では、日本消化器病学会の「慢性便秘症診療ガイドライン2023」および国際基準の「Rome IV基準」に基づき、便秘の定義や分類、発症メカニズムをわかりやすく解説します。

便秘の定義|ガイドラインではどう定められている?

便秘は単に「便が出にくい」状態を指すのではありません。
世界でもっとも使われている便秘の基準、Rome IV基準では、以下のような症状が週のうち3回以上、3か月以上続いている場合を慢性便秘と定義しています。

✅ 排便回数が週に3回未満
✅ 排便時の強い力み
✅ 兎糞状(硬くコロコロした便)
✅ 排便後の残便感
✅ 肛門直腸の閉塞感
✅ 指で便をかき出す必要がある

便秘の主な3つの種類と特徴

便秘は主に以下の3種類があります。

多くは一過性便秘や機能性便秘に分類されますが、初めて便秘の患者様を診療する際には、器質性便秘(特に大腸がんによる便秘)出ない事は診断する事が大切になってきます。

分類 特徴と原因
一過性便秘 一時的なストレスや旅行、食事の変化によって起こる便秘。自然に改善することが多い。
機能性便秘 腸の動きや感覚に問題があり、慢性的に続く。最も多く見られるタイプ。
器質性便秘 大腸がん、腸閉塞などの疾患が原因。治療には専門医の診断が必要。

慢性便秘のタイプと発症メカニズム

慢性便秘は、さらに便が出にくくなる原因によっても以下のように分類されます。

タイプ 特徴
弛緩性便秘 腸のぜん動運動が低下。高齢者や運動不足の人に多く、便が腸に長くとどまり硬くなる。
痙攣性便秘 腸が過敏に動くことで便がスムーズに流れず、腹痛やガスが溜まりやすい。ストレスと関連。
直腸性便秘 排便の我慢や、骨盤底筋の機能低下によって起こる。デスクワークや出産経験者に多い。

 

便秘の診断|何をもとに診断されるのか?

便秘の治療において最も大切なのは、正しい診断です。便秘の原因や種類によって治療法は大きく異なるため、医療機関ではまず症状の聞き取り(問診)と必要な検査を行います。

診断の基本:Rome IV基準とガイドラインによる評価

慢性便秘の診断には、Rome IV診断基準と**「慢性便秘症診療ガイドライン2023」(日本消化器病学会)**が広く使用されています。

Rome IV基準の主なチェックポイント(3か月以上継続)

項目 内容
排便回数 週3回未満
力み 排便時に強くいきむことが多い
残便感 排便後も便が残っているように感じる
閉塞感 便が出にくい、または出口に詰まっている感覚がある
手による排便補助 指でかき出す・肛門周囲を押すなど
兎糞状の便(コロコロ便) 硬く小さい便が続く

Rome IV基準では、これらの6項目のうち2項目以上が当てはまり、かつ他の疾患が否定される場合、機能性便秘と診断されます。

医療機関で行われる主な検査

便秘のタイプや重症度を把握するために、医師は以下の検査を行うことがあります。

検査名 説明
腹部X線検査 腸内にたまった便の量や位置を確認。
大腸内視鏡検査 器質的疾患(大腸がん・ポリープなど)の有無を調べる。
排便造影検査 便の通過や排出機能を画像で評価。直腸性便秘に有効。
腸管通過時間測定 カプセルなどを使い、便が腸を通過する時間を測定(大腸通過遅延型便秘の診断)。
 
 

当院での診療

当院で行う事ができる検査は腹部X線検査 並びに大腸内視鏡検査です。

上述した通り、便秘の診療でまず大切なのは、機能性便秘(いわゆる便秘)なのか、器質性便秘(主に大腸がんによる便秘)なのかをしっかりと診断することです。

  1. 便秘が高度な場合、まず腹部X線検査を行い腸閉塞がないかを確認します。腸閉塞がみられた場合には、すぐに高次医療機関にご紹介をさせて頂きます。
  2. 腸閉塞が無い場合、大腸カメラについてご相談させて頂きます。
  3. 大腸カメラを行いたくない場合には、機能性便秘疑いとして下剤の内服を開始します。
  4. 経過に応じて適宜大腸内視鏡検査について相談させて頂きます。

 

大腸カメラWEB予約

 

 

便秘の基本治療|まず行う生活習慣の改善とは?

便秘の治療において、最初に取り組むべきなのが生活習慣の見直しです。
日本消化器病学会の「慢性便秘症診療ガイドライン2023」でも、薬物療法に先立って生活習慣の改善が推奨されています。

特に食事・運動・排便習慣の3つの柱は、便秘の根本的な改善に直結します。

食事療法|まずは食物繊維と水分をしっかりとる

 

 

便秘改善の基本は、腸内環境を整える食物繊維の摂取です。

食事内容 推奨されるポイント
食物繊維の摂取 野菜、果物、海藻、豆類などを1日20g以上摂ることが推奨
水分の補給 食物繊維と一緒に水分を十分摂ることで便が柔らかくなる
発酵食品の活用 ヨーグルトや納豆などで腸内細菌バランスを整える
 

便秘改善に効果的な食材一覧

食材 含まれる栄養素 特徴
ごぼう 不溶性食物繊維 腸を刺激し便通を促進
キウイ 水溶性食物繊維+酵素 便を柔らかくし排出をスムーズに
ひじき ミネラル+不溶性繊維 貧血予防にも効果的
納豆・ヨーグルト 乳酸菌・ビフィズス菌 善玉菌を増やして腸内環境を改善

運動療法|腸を刺激する簡単な動きで効果あり

適度な運動は、腸のぜん動運動を促進します。特におすすめなのは以下のような運動です。

  • ウォーキング(1日20〜30分)

  • 腹式呼吸(腸マッサージ効果)

  • 腹筋運動(腸への圧刺激)

忙しい方は、椅子に座ったまま膝を上げる軽い運動でも十分効果が期待できます。

排便習慣の改善|「トイレ時間」を習慣化

腸は「習慣」を覚えます。排便のリズムを整えるためには、毎日同じ時間にトイレに座ることが効果的です。

習慣化のポイント 解説
毎朝決まった時間にトイレ 起床後すぐ、水やコーヒーを飲んでからトイレへ
トイレでの姿勢 和式のように前傾姿勢をとると、直腸がまっすぐになり出やすい
便意を我慢しない 我慢は直腸性便秘の原因になるため早めに対応を

 

薬物治療|便秘薬の正しい使い方と種類別解説

 

生活習慣の改善をしても便秘が改善しない場合、薬物療法(便秘薬)が次の選択肢となります。
「慢性便秘症診療ガイドライン2023」では、便秘のタイプに応じた個別化治療
が推奨されており、薬の選び方や使い方が非常に重要です。

ここでは便秘薬の種類、作用機序、副作用、ガイドライン上の推奨度を分かりやすく解説します。

便秘薬の分類と特徴

便秘薬は大きく分けて以下のように分類されます。

薬の種類 主な薬剤名 作用機序 特徴・注意点
浸透圧性下剤 酸化マグネシウム、PEG製剤など 腸内の水分量を増やして便を柔らかくする 効果が穏やか・高齢者にも安全性高い
刺激性下剤 センナ、ピコスルファートナトリウム 腸の蠕動運動を直接刺激する 連用で耐性・依存のリスクあり
上皮機能調整薬 ルビプロストン、リナクロチド 腸管上皮から水分分泌を促進 マグネシウムの次に推奨される
胆汁酸トランスポーター阻害薬 エロビキシバット 胆汁酸の再吸収を抑え腸内で水分増加 食前の服用で効果が高い
漢方薬 大建中湯、麻子仁丸など 体質改善と腸の刺激 漢方専門医の指導で使用が望ましい

ガイドラインでの推奨度と使用ポイント

「慢性便秘症診療ガイドライン2023」では、以下の薬剤を第一選択として推奨しています:

  • 酸化マグネシウム(浸透圧性下剤):高齢者にも安全で長期使用可

  • ルビプロストン・リナクロチド(上皮機能調整薬):自然な排便促進作用がある

  • エロビキシバット(胆汁酸製剤):食後服用で腸を刺激せず便通改善が可能

一方で、刺激性下剤は「連用を避けるべき」と明記されており、どうしても排便が困難なときの「一時的な使用」にとどめることが望まれます。

 

難治性便秘とその他の治療法|手術・バイオフィードバック療法など

生活習慣の改善や薬物治療を行っても効果が乏しい場合、「難治性便秘(難治性慢性便秘症)」の可能性があります。
特に器質的疾患や重度の直腸性便秘、骨盤底機能障害が関与している場合は、専門的な治療や高度医療が必要となることがあります。

難治性便秘とは?|一般的な治療で改善しない便秘

「難治性便秘」とは、以下のようなケースを指します。

  • 複数の下剤を使用しても排便がない

  • 排便回数が週1回未満、かつ強い残便感

  • 画像検査や内視鏡でも原因がはっきりしない

  • 骨盤底筋の異常が原因と考えられる

こうしたケースでは、排便のメカニズムそのものに異常がある可能性が高く、専門医による評価が重要です。

その他の治療法|便秘タイプに応じた高度治療

治療法 適応タイプ 特徴・効果
バイオフィードバック療法 直腸性便秘、骨盤底筋障害型 排便筋の訓練を通じて正常な排便反射を回復
経肛門的排便訓練 直腸が便を感知しづらい人 便意のトリガーを人工的に刺激
便瘻・人工肛門の造設 腸閉塞や重度の器質性便秘 排便経路を別に設ける、最終的手段
外科的手術(大腸切除) 重度の腸管通過障害 薬も無効な重症例に限って行われる

専門医への相談が必要なサイン

以下のような症状がある場合、消化器内科または便秘専門外来の受診を検討しましょう。

✅ 薬が効かない、または長期使用しても改善しない
✅ 腹痛・腹部膨満が強いのに便が出ない
✅ 血便や急激な体重減少を伴う
✅ 高齢者・要介護者の頑固な便秘

 

【まとめ】便秘の治療法をガイドラインに基づき徹底解説!

便秘は、多くの人が抱える身近な悩みですが、その背景には生活習慣・腸の運動機能・心理的要因・疾患などさまざまな要因が潜んでいます。
この記事では、日本消化器病学会「慢性便秘症診療ガイドライン2023」やRome IV基準をもとに、便秘の診断から治療までを体系的に解説しました。

医師に相談すべきタイミング

自己判断で市販薬を続けるのではなく、次のような場合は早めに医師の診察を受けましょう。

  • 便秘が数週間以上続く

  • 薬を使っても効果がない

  • 血便、体重減少、激しい腹痛がある

  • 高齢者で排便トラブルが生活の質を下げている

便秘治療は「正確な診断と段階的アプローチ」がカギ

便秘の治療は「○○だけやれば治る」といった単純なものではありません。
ガイドラインでも強調されているように、まずは生活習慣を整え、その上で必要に応じて薬や専門的治療を選択することが重要です。

便秘に悩むすべての方が、自分に合った治療法を見つけ、快適な毎日を取り戻せるよう、この記事がその一助となれば幸いです。

 

 

引用論文・ガイドライン一覧

  1. 日本消化器病学会
     『慢性便秘症診療ガイドライン2023』
     著者:日本消化器病学会慢性便秘症診療ガイドライン改訂委員会
     発表:2023年
     概要:日本人の便秘診療における最新の診断基準と治療方針を示した臨床ガイドライン。

  2. Drossman, D. A., et al.
     Title: Rome IV Diagnostic Criteria for Functional Gastrointestinal Disorders
     Journal: Gastroenterology, 2016
     DOI: 10.1053/j.gastro.2016.02.032
     概要:国際的に用いられている機能性消化管疾患の診断基準Rome IVの詳細。

  3. Mugie, S. M., Benninga, M. A., & Di Lorenzo, C.
     Title: Epidemiology of constipation in children and adults: a systematic review
     Journal: Best Practice & Research Clinical Gastroenterology, 2011
     DOI: 10.1016/j.bpg.2011.01.002
     概要:小児から成人までの便秘の有病率や原因をまとめたシステマティックレビュー。

  4. Fukudo, S., et al.
     Title: Evidence-based clinical practice guidelines for chronic constipation 2017
     Journal: Journal of Gastroenterology, 2017
     DOI: 10.1007/s00535-017-1367-5
     概要:ガイドライン策定前のエビデンス整理に基づく日本の慢性便秘治療ガイドライン。

  5. Camilleri, M.
     Title: Chronic constipation: a review of current literature
     Journal: Gastroenterology Clinics of North America, 2021
     DOI: 10.1016/j.gtc.2021.03.001
     概要:難治性便秘の診断および新たな薬物治療アプローチに関する最新レビュー。

【監修者】

かわぐち内科・内視鏡クリニック

川口 佑輔

HOME

▲ ページのトップに戻る

Close

HOME