胃粘膜下腫瘍
胃粘膜下腫瘍とは?
胃の壁は、内側から順に『粘膜-粘膜下層-固有筋層-漿膜』という構造から成っています。
胃粘膜下腫瘍とは、その名の通り粘膜の下側、つまり粘膜下層や固有筋層、漿膜といった部分から発生する腫瘍を指し、このような形態を呈する腫瘍には悪性から良性まで複数の種類があります。
胃粘膜下腫瘍があるだけでは症状が出ない事がほとんどであり、健診の胃カメラなどで偶発的に発見されることが多い疾患です。
このページでは、胃粘膜下腫瘍について詳しく解説させて頂きます。
胃粘膜下腫瘍の種類
胃粘膜下腫瘍を呈する病気にはいくつかの種類があり、代表的なものとしては、
- GIST(消化管間質腫瘍)
- 平滑筋腫
- 神経内分泌腫瘍
- 迷入膵
などがあります。
GIST
GIST(消化管間質腫瘍)は、胃粘膜下腫瘍の中で最も有名で頻度の高い悪性腫瘍です。
画像の症例は当院にて診断したGISTの一例ですが、この写真のように病変が大きくなると腫瘍の一部が崩れ内部が出て来る『delle』を生じる症例もみられます。
delleがみられる症例では、この部分から生検による組織採取を行う事で診断がつくこともありますが、delleを伴わない事も多いため通常の胃カメラでは診断がなかなか困難です。
増大傾向があるものや20mm以上の粘膜下腫瘍では、このGISTの可能性を考慮し、専門の病院にご紹介する必要があります。
GISTと診断がついた場合、GISTは悪性腫瘍ですので手術による切除が必要です。また、肝臓などに転移がみられる方であれば抗癌剤治療が必要となる事もあります。
平滑筋腫
平滑筋腫は、平滑筋細胞を起源とする良性の腫瘍であり、GISTとの鑑別が問題となります。
胃カメラ検査のみでは平滑筋腫かGISTかの判別は困難であるため、超音波内視鏡検査(EUS)や超音波内視鏡下穿刺吸引術(EUS-FNA)などにより診断を行います。
平滑筋腫自体は良性の最もよくみられる粘膜下腫瘍であり、増大傾向や20mm以下のものであれば、平滑筋腫を疑い半年~1年に1回の胃カメラにより経過をみる事も多々あります。
良性腫瘍であるため治療の必要はなく、定期的な胃カメラフォローがあれば問題ありません。
神経内分泌腫瘍
神経内分泌腫瘍は、神経内分泌細胞から発生する腫瘍で、消化管や膵臓などの器官に発生しやすい腫瘍です。
内視鏡的には黄色調の小さな粘膜下腫瘍として発見されることが多いです。
悪性度の高いものから低いものまでありますが、通常神経内分泌腫瘍の診断がつけば内視鏡または手術による切除を行います。
迷入膵
迷入膵とは、膵臓の組織が胃や十二指腸などの消化管の壁に異常に存在する状態です。これは先天的なもので、多くの場合無症状で経過します。
胃粘膜下腫瘍の症状
胃粘膜下腫瘍の症状はほとんどありませんが、大きくなった場合に以下の症状が出現する事があります。
- 胃もたれ
- つかえ感
- 腹痛
- 消化管出血(特に黒色便)
胃粘膜下腫瘍は、ほとんど症状がありません。多くの場合、バリウム検査や胃カメラで偶然発見されることが多いです。
ただし、腫瘍が大きくなると、胃もたれやつかえ感が出ることがあります。これは、腫瘍が胃の働きを阻害し、消化に影響を与えるためです。
また、腫瘍がさらに大きくなり、潰瘍ができると、出血や腹痛といった症状が現れることがあります。このような症状があらわれた場合は、早急に専門医の診察を受けることが重要です。
胃粘膜下腫瘍の検査・診断
胃粘膜下腫瘍の検査・診断には、
- 胃カメラ検査
- 上部消化管造影検査(バリウム検査)
- 超音波内視鏡検査(EUS)
などが行われます。
胃カメラ検査
胃カメラ検査は、胃粘膜下腫瘍を発見する上で最も有用な検査です。
胃カメラ検査では、内視鏡スコープを胃内まで挿入し直接病変を観察する事で、胃粘膜下腫瘍を発見する事は比較的容易にできます。
また、胃粘膜下腫瘍では、腫瘍が大きくなるとdelleという病変頂部の潰瘍を呈する事があり、その場合そこから生検による組織検査を行う事で粘膜下腫瘍がどのような種類のもので、良性なのか悪性なのかを判別できる可能性があります。
一方小さな粘膜下腫瘍を発見した場合、その種類については分からない事がほとんどです。しかし、粘膜下腫瘍のガイドラインでも10㎜以下の小型粘膜下腫瘍で悪性であることはほとんどない事が示されており、その場合半年~1年毎の胃カメラ検査を行うべきと推奨されています。
上部消化管造影検査(バリウム検査)
上部消化管造影検査は、バリウムを飲んで胃や食道、十二指腸の粘膜像をX線で撮影する検査です。この検査を行うことで、胃粘膜下腫瘍の形状や大きさ、位置を把握することができます。
ただし、粘膜下腫瘍の種類や悪性度を把握する事は困難であり、通常バリウム検査で胃粘膜下腫瘍を指摘された場合には、胃カメラ検査を行う事が推奨されています。
超音波内視鏡検査(EUS)
超音波内視鏡検査(EUS)は、胃カメラの先端に超音波がついた特殊な内視鏡装置を使用して、胃粘膜より深い位置の詳細な画像を得ることができる検査です。これにより、腫瘍の大きさや深さ、周囲の組織との関係を正確に把握することができます。
残念ながらこの方法は当院では不能であり、必要に応じて提携病院をご紹介することとなります。
また、EUSを使用して組織を採取する事が可能であり、その点については次の項目で説明させていただきます。
超音波内視鏡下穿刺吸引術(EUS-FNA)
がんなどの粘膜から発生する腫瘍では、胃カメラによる組織採取によりほとんどの場合診断が可能です。
しかし粘膜下腫瘍では、病変が粘膜の下に潜り込んでいるため、通常の胃カメラ検査では組織を採取して診断する事が困難です。
そのような場合に先ほどのEUSを用いて、病変に軽微な針を刺すことで組織を採取し、診断を付ける事が可能であり、この方法を超音波内視鏡科穿刺吸引術といいます。
こちらも入院が必要な検査であり、提携する高次医療機関をご紹介させて頂きます。
CT検査
CT検査は、胃の粘膜下腫瘍の診断において効果的な方法であり、腫瘍の大きさや位置、周囲組織との関係を把握することができます。また、悪性腫瘍の場合、リンパ節転移や遠位転移の有無を調べることも可能です。
しかし、CT検査だけでは腫瘍の良性・悪性の判別は難しく、精密な検査が必要となります。EUSなどの他の画像検査と組み合わせることで、より正確な診断が可能になります。
胃粘膜下腫瘍の治療
GISTを始めとした悪性の胃粘膜下腫瘍の場合、治療は基本的に手術となります。
手術の方法としては、LECSと呼ばれる内視鏡と外科的手術の合同治療や、ダヴィンチ(いわゆるロボット手術)を使用した低侵襲手術など、さまざまな治療法が開発されています。
当院で行う事ができる胃粘膜下腫瘍の診療
健康診断のバリウムや胃カメラで胃粘膜下腫瘍と診断される事は、稀ではありません。
上述したように、胃粘膜下腫瘍は種類により手術が必要な疾患もありますので、胃粘膜下腫瘍を指摘されたら一度は医療機関への受診が必要です。
当院では超音波内視鏡(EUS)は行う事ができませんが、通常の胃カメラ検査でおおよその診断が可能です。
- 20mm以下、増大傾向のない粘膜下腫瘍
1年に1度の胃カメラ定期経過観察を行います。
- 20mm以上、増大傾向がある、delleを伴う粘膜下腫瘍
GISTを始めとした悪性腫瘍の可能性があり、専門の医療機関へ責任をもってご紹介させて頂きます。
当院では、麻酔薬を使った苦痛の少ない内視鏡検査を行っています。内視鏡専門医である院長が責任を持って担当し、胃・大腸カメラを同日施行する事も可能です。
胃の症状があり、胃カメラを受けるべきか相談したい方は【外来Web予約】へお進みください。
他院からの紹介状などがあり胃カメラを予約したい方は【胃カメラWeb予約】へお進みください。
【監修者】
かわぐち内科・内視鏡クリニック
川口 佑輔
- 2010年北里大学医学部卒業
- 日本内科学会認定医
- 日本消化器内視鏡学会専門医
- 日本肝臓病学会専門医