大腸カメラ前に行う腸管洗浄(下剤)の仕組みや副作用は?種類や飲み方のコツ
大腸内視鏡検査を受ける前には、腸内の消化渣をきれいに洗浄するため、下剤(腸管洗浄剤)の摂取が必要です。この記事では、下剤の必要性、種類、効果、味や飲み方のコツ、副作用への対処法など、詳しく解説しています。効果的に検査を受けるため、ぜひ参考にしてください。
かわぐち内科・内視鏡クリニック
川口 佑輔
2010年北里大学医学部卒業
日本内科学会認定医 日本内科学会 (naika.or.jp)
日本消化器内視鏡学会専門医 日本消化器内視鏡学会 (jges.net)
日本肝臓病学会専門医 一般社団法人 日本肝臓学会 (jsh.or.jp)
大腸カメラ前の下剤(腸管洗浄剤)~総論~
大腸カメラ前の腸管洗浄剤は、大腸内視鏡検査を受けるにあたり非常に重要な過程の一つです。大腸前処置が複雑に感じられるかと思いますが、ここで腸管洗浄剤について総論をお伝えします。
通常の便秘の際に使う錠剤の下剤と混同するため、以降では「腸管洗浄剤」と記載させていただきます。
大腸カメラ前に腸管洗浄剤が必要な理由
モビプレップ® やニフレック® は、大腸内視鏡検査の前処理として使われる腸管洗浄剤です。大腸前処置は非常に重要で、不十分な場合は不十分な検査となります。腸管洗浄剤の重要性は以下のようです。
- 病変の見逃しを減らす
- 検査時間の延長を避ける
- 不十分な検査による再検査を避ける
- 内視鏡治療を安全に行う
十分な下剤内服で、これらの影響を避けられます。
腸管洗浄剤の作用機序~腸管洗浄剤と普通の水の違い~
腸管洗浄剤は各商品により飲み方が異なりますが、いずれも2-3Lの水分を内服する必要があります。腸管洗浄剤と普通の水やお茶の違いは、水やお茶が小腸や大腸で吸収されて体液として貯蓄されるのに対し、腸管洗浄剤は腸管内の液体(腸液)と同等の電解質・浸透圧に調整され、飲んだものが腸管内で吸収されずそのまま排出されるよう設計されている点です。
腸管洗浄剤の副作用
腸管洗浄剤には、副作用が生じることがあります。具体的な症状としては、悪心、嘔吐、腹痛が現れる可能性があります。また、その他の副作用として、アナフィラキシー、腸閉塞、腸管穿孔、虚血性大腸炎が生じることがあります。
特に、大腸がんがある場合は、腸閉塞や腸管穿孔のリスクが高まるため、事前に腹部レントゲンで腸閉塞がないことを確認することが重要です。
腸管洗浄剤の内服は辛い?苦しい?
腸管洗浄剤の内服によって、イメージされるのは辛さや苦しさ、時間がかかること、お尻が痛くなることなどです。確かに、このような症状が生じる可能性はあります。しかし、一方で自分に合った腸管洗浄剤を選ぶことで、辛さを半減させることも可能です。以前に大腸カメラの検査で腸管洗浄剤が辛かった方は、大腸カメラ前の外来で医師にご相談下さい。
腸管洗浄剤の各論 ~当院で使用しているものを中心に~
腸管洗浄剤には多くの種類が発売されており、それぞれにメリットとデメリットがあります。代表的な腸管洗浄剤として、アスコルビン酸配合高張液(モビプレップ ® )、ナトリウム・カリウム配合剤散(ニフレック ® )、クエン酸マグネシウム液(マグコロールP ® )、ピコスルファート/クエン酸マグネシウム配合剤(ピコプレップ ® )、リン酸水素ナトリウム錠(ビジクリア ® )、無水ボウショウ硫酸カリウム硫酸マグネシウム水和物(サルプレップ)があります。当院では、モビプレップとマグコロールPを主に導入しています。
モビプレップ
モビプレップは、最も多く使用されている腸管洗浄剤の一つです。ここでは、モビプレップの特徴についてお話します。
モビプレップの作用機序
モビプレップの作用機序は、ポリエチレングリコール(PEG製剤)を主成分としており、ニフレックと同様の等張液を用いることで、腸管内の水分バランスを保ちながら大腸を洗浄します。モビプレップは高張液であり、服用中に途中で水を飲むことができるため、口直しも可能であり、腸管洗浄を比較的楽に行うことができます。
モビプレップの味
元々多く使用されていたニフレックは、洗浄力も強く簡便である一方、味的に受け付けない方も多くいらっしゃいました。
モビプレップの味は、梅ジュースを彷彿とさせる酸っぱくて濃い味と表現されることが多く、好みはありますが、比較的多くの方に許容範囲との評価を頂いています。
モビプレップの飲み方
モビプレップの飲み方は以下の通りです。2Lに溶解したモビプレップをコップに1杯ずつ移し、排出液が透明になるまで服用します。服用中に水やお茶を飲んでも構いません。モビプレップを180mlずつ、10-15分かけてゆっくり飲み、その後水やお茶を1杯内服します。このプロセスを繰り返し、便がきれいになったら終了です。
モビプレップの良い点・悪い点
モビプレップの良い点
・腸管洗浄力が高い:腸管洗浄力(腸の中をきれいにするパワー)は、現在発売されている全薬剤の中でNO1です。どんなに飲みやすくても、腸管の中がきれいにならなければ、ポリープ見逃しの原因になるだけでなく、最悪の場合再検査となってしまいます。この点がモビプレップが最も使用されている所以です。
・途中で水やお茶を内服してお口直しができる:味自体は苦手な方もいらっしゃりますが、途中で水やお茶を飲んでお口直しができるので、そこまで辛くないという方が多いです。
・誰にでも使いやすい:腎臓の機能障害がある方は、他の腸管洗浄剤が使用できない事があります。実は腎臓の機能は高齢になると多くの方が低下してきます。そのため、モビプレップは高齢者を中心に誰にでも使用しやすい薬剤として汎用されているのです。
悪い点
・梅味でおいしくないと感じられることがあります。
マグコロール
マグコロールは、昔ながらの下剤であり、味が比較的飲みやすい、内服方法が簡便である事が特徴です。
マグコロールの作用機序
マグコロールの作用機序は、クエン酸ナトリウム液を用いた等張液で、腸管内の水分バランスを保ちながら、効果的に大腸を洗浄します。
マグコロールの飲み方
マグコロールPの服用方法はまず、白い水薬(腸内の泡を取る薬)をマグコロールPに加え、しっかり混ぜます。次に、200ml(約コップ1杯)を5分間隔でゆっくりと1~2時間かけて飲み切ります。途中で便意を感じた場合は、一度飲むのを中止して排便し、その後引き続き残りを飲みきりましょう。
マグコロールの良い点・悪い点
マグコロールの利点は、比較的飲みやすい点が挙げられます。しかしながら、欠点としては、腎機能障害がある方には使用できないことや、他の腸管洗浄剤と比べると洗浄力が弱いため、検査の見逃しや偽陰性が起こりやすくなる可能性があります。
楽に腸管洗浄剤を飲むためのポイント
楽に腸管洗浄剤を飲むためには、数日前からの準備が重要です。また、下剤を効果的に飲むコツも知っておくことが役立ちます。
大腸カメラ2日前から食事に気を付ける
大腸内視鏡検査の2日前からは、消化が良い食事に気を付けることが大切です。消化に良い食事を摂ることで、腸管洗浄剤が効果的に働きやすくなり、身体への負担が軽減される可能性があります。
当院で使用している検査前 事前準備のお願い を添付しましたので、参考にして下さい。
【ポイント】
- 脂肪分の少ない赤身肉や白身魚は問題ありません。
- 食パンやお米も問題ありません。
- 健康や便秘解消によいとされている食物繊維を多く含む野菜や果物の皮・種などは大腸内非常に残りやすいため、接種しないようにする。
下剤の味を和らげる方法
下剤の味を和らげるコツとして、冷蔵庫で冷やす方法やストローを使って飲む方法があります。冷やすことで飲みやすさが向上する場合がありますが、冬場は身体への負担に注意が必要です。また、ストローを使うことで口の中全体に味が広がらず、飲みやすくなる可能性があります。
副作用が辛い場合の対処法
副作用に悩まされる場合、まず副作用の原因を特定することが重要です。原因によって対処法が変わるため、具体的な症状を把握しましょう。一般的な副作用として、腹痛や下痢、吐き気が挙げられます。また、水分補給を怠ると脱水症状が起こることがあるため、水分は十分に摂取することが大事です。
腹痛の場合、服用ペースを調整することで改善されることもあります。下痢や吐き気に対しては、一時的に薬の服用を中断し、症状が落ち着いてから再開することが効果的です。ただし、必ず医師に相談して行動してください。
最後に、下剤の種類や服用量によって副作用が悪化することもあるため、医師と相談しながら最適なプランを立てましょう。
下剤内服のQ&A
Q1 どのくらいの時間で便がきれいになりますか?
A :下剤の種類にもよりますが、平均3時間ほどで、大腸カメラが可能な状態になる薬剤が多いです。
ただし、患者様の年齢や普段の便通状態(便秘の人はより長く時間がかかる傾向)により個人差があります。
元々便秘気味の方に関しましては、大腸カメラ前に一時的に下剤の投与を行うことで、腸管洗浄剤の効果が良くなり、苦痛を減らす事ができる可能性があります。
便秘などで、大腸カメラの腸管洗浄剤内服に不安のある方は、お気軽に院長にお申しつけ下さい。
Q2 腸管洗浄剤を内服してもなかなか便がきれにならない時の対処法は?
A:大腸カメラ当日、患者様からのお問合せで一番大きのが、この質問です。
普段便秘の方などで、腸管洗浄剤を内服しても排便が少なく、本当に腸がきれいにならない方は、ごく少数ですがいらっしゃいます。
便がきれいにならない状態で内視鏡検査を行うのは困難です。
ただし、まず前提として、『便がきれいにならない』とおっしゃる方の多くは、便にかすが残ってしまっている程度の状態の方が多いです。もちろん、便は透き通ったレモン色程度の状態が望ましいですが、便にかすが残っている程度であれば、大腸カメラにはほとんどの場合差支えありません。
まだ、固形の便である、となると、確かに大腸カメラは困難です。自宅にて下剤を内服する場合、追加で腸管洗浄剤を処方するのが困難というデメリットがあります。しかし、その場合でも①水、またはお茶を内服する ②家の中をウォーキングし腸管を動かす 事で、排便が可能となる方がたくさんいらっしゃいます。
腸管洗浄剤内服後の排便状況に不安がある場合は、お気軽に当院までご連絡下さい。
Q3 自宅が遠いですが、途中で便が出てしまわないか心配です。
A:はい、確かにそのリスクはございます。当院では自宅での腸管洗浄剤内服をお願いしているため、自宅から1時間以上かかる場合には、大変残念ではありますが検査が難しい可能性がある旨をお伝えしております。
内視鏡専門クリニックなどでは、院内で下剤が内服できる施設もありますので、ご検討頂けますと幸いです。
Q4 仕事をしながら腸管洗浄剤は飲める?
A:仕事の内容にもよります。例えば在宅勤務などで、ご自身で時間を調整できる場合には可能と思われます。
一方で、例えば会社などで腸管洗浄剤を内服するのは、恐らく困難です。腸管洗浄剤を内服すると、早ければ10-20分で便意を催し、その後も頻回に排便を行うこととなります。職場で腸管洗浄剤を飲み、その後の排便を行う事は現実的には難しいと考えます。
Q5 前回腸管洗浄剤内服が辛かった。対処法はある?
前回の辛い経験を踏まえ、今回も同じ下剤が不安な方は、医師と相談し異なる種類の下剤や製剤に変更することが対処法となります。
また、服用量やタイミングの見直しも効果的です。適切な服用方法を実践することで、辛い副作用を緩和できることがあります。
さらに詳しい情報やアドバイスが必要であれば、院長にご相談ください。
まとめ
腸管洗浄剤について、記載させて頂きました。
それぞれの腸管洗浄剤にメリット、デメリットがあり、それぞれの患者様に合った腸管洗浄剤があります。
腸管洗浄剤の内服が辛そうだから、大腸カメラが嫌だ という方へ。
是非この記事を読んでいただき、腸管洗浄剤の事を知り、様々な解決方法がある事を知って頂きたいです。
何卒宜しくお願い致します。