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逆流性食道炎の薬、ずっと飲んで大丈夫?副作用ややめどきの真実

[2025.06.09]

逆流性食道炎の治療で処方される胃薬(主にPPI=プロトンポンプ阻害薬)。病院で処方された薬を飲み続けているけれど、「これって一生続けないといけないの?」「副作用が心配…」「やめたいけれど、どうすればいいの?」と不安になる方も多いのではないでしょうか。

この記事では、逆流性食道炎の薬を長期で使っても大丈夫なのか?副作用ややめどきのタイミング、再発予防の生活習慣まで、医学的な根拠を交えてわかりやすく解説します。

 

そもそも逆流性食道炎とは?|まずは病気の理解から

逆流性食道炎は、胃酸や胃の内容物が食道へ逆流することで、食道粘膜に炎症が起こり、胸焼けや呑酸(どんさん)といった不快な症状を引き起こす病気です。

よくある症状

  • 胸焼け(胸のあたりが熱く焼ける感じ)

  • 呑酸(酸っぱい液が喉まで上がる感じ)

  • 喉の違和感、声がれ

  • 慢性咳嗽(長引く咳)

これらの症状が毎日ある、あるいは週に2回以上続く場合は、逆流性食道炎の可能性があります。

タイプによる違い

胃酸が食道に逆流する事で症状を引き起こす病態を胃食道逆流症(Gastro Esophageal Reflux Disease : GERD)と呼びます。

GERDの中で、内視鏡的に食道胃接合部(胃と食道のつなぎ目)に炎症所見があるものを逆流性食道炎、ないものを非びらん性胃食道逆流症(Non-Erosive Reflux Disease : NERD)と呼びます。

タイプ 特徴 発症頻度
非びらん性胃食道逆流症(NERD) 内視鏡で見ても食道に傷が見られない 約60〜70%
逆流性食道炎 内視鏡にて食道にただれやびらんが見られる 約30〜40%

【図】逆流のメカニズム:胃酸が食道へ逆流するイラスト

日本では高齢化や肥満、欧米化した食生活の影響で、年々増加傾向にあります。ある研究では、逆流性食道炎の有病率は成人の約10〜20%とされています(日本消化器病学会ガイドライン2021)。

 

逆流性食道炎の治療薬とは?|薬の種類とその働き

逆流性食道炎の治療は主に薬物療法から始まります。

基本的に全て胃酸分泌抑制薬に分類される薬剤であり、古いものから順に以下の薬剤があります。

H2ブロッカー

胃酸を出すヒスタミンの働きを抑えます。胃酸分泌抑制薬の中で最初に登場した薬剤であり、胃酸を止める作用としては弱いものの、副作用が少ないため軽症の方に使われることもあります。

薬剤名 商品名(例)
ファモチジン ガスター®
ラニチジン (販売停止中)

 ②プロトンポンプ阻害薬(PPI)

H2ブロッカーの出現は、胃潰瘍治療に大きな変化を与えましたが、その後登場したPPIは、それを超える胃酸分泌抑制効果があり、この薬剤が胃潰瘍やGERD治療にも第一選択になっています。

薬剤名 商品名(例)
ランソプラゾール タケプロン®
エソメプラゾール ネキシウム®
オメプラゾール オメプラール®
 

③カリウムイオン競合型アシッドブロッカー(Potassium-Competitive Acid Blocker)

一番最近登場した胃酸分泌抑制薬です。

胃酸分泌抑制作用はPPIをしのぎ、値段の面でPPIを出す事も多いですが、難治性のGERDであれば、このタイプが最も効果を発揮します。

薬剤名 商品名(例)
ボノプラザンフマル酸塩 タケキャブ

④ 消化管運動促進薬(モサプリドなど)

胃の動きを良くして、胃酸が逆流しにくくなるようサポートします。PPIと併用されることが多いです。

 

薬をずっと飲んで大丈夫?|長期服用のリスクと最新エビデンス

不安の多くは「副作用」

PPIは効果が高い反面、長期使用による副作用の可能性が近年注目されています。以下に代表的な副作用と、その科学的根拠を紹介します。

主な副作用とそのメカニズム

副作用 内容・メカニズム
ビタミンB12欠乏 胃酸が少ないとB12吸収が低下
鉄・カルシウム吸収障害 ミネラル吸収に影響が出る
骨粗しょう症・骨折リスク 特に高齢者で注意が必要
感染症のリスク増加 腸内環境が乱れやすくなる
慢性腎疾患の可能性 長期服用との関連が示唆される研究あり

✅ 論文からのエビデンス

  • Lazarus B, et al.「Proton Pump Inhibitors and Risk of Chronic Kidney Disease」JAMA Intern Med. 2016
    ⇒ PPI長期使用と慢性腎臓病のリスクに関連ありと報告。

  • Yu EW, et al.「Long-term use of PPIs and fracture risk」Curr Gastroenterol Rep. 2011
    ⇒ 骨密度の低下や骨折リスク増加に関する報告。

それでも薬は、医師の指導のもとで適切に使えば安全

一方で、PPIは広範囲な検討の結果、推奨された用法・用量の範囲であれば、長期使用でも重篤な副作用の発生は稀であり、安全性は高いと結論付けられている論文もあります。また、近年使用が広がっているP-CAB(ボノプラザン)も、12か月以上の投与で重篤な副作用の増加は認められていないとの報告があります。

✅ 論文からのエビデンス

  Scarpignato C, et al.「Safety of Proton Pump Inhibitors: A Review of Risks and Benefits」Ther Adv Drug Saf. 2016

このことから、PPIやP-CABといった胃酸分泌抑制薬は、医師の指導のもと用法・用量を守っていれば、長期使用でも比較的安全であるといえます。過剰な心配を避け、継続治療が必要な場合は安心して服用を続けることが大切です。

 

やめたいときどうする?|薬のやめどきと医師との相談ポイント

いきなりやめるのはNG

症状がよくなったからといって、自己判断で薬を中断すると**「リバウンド現象」**で胃酸の分泌が急増し、症状が悪化することがあります。

徐々に減らす「ステップダウン療法」

方法 内容
ステップダウン PPI → H2ブロッカーなどに切り替え、徐々に減薬
隔日投与 毎日飲んでいた薬を1日おきにし、様子を見る
最小限維持 必要な時だけ頓用で使う(オンデマンド療法)

医師に相談すべきポイント

  • 症状が落ち着いて3か月以上経過している

  • 食生活や生活習慣が改善されている

  • 内視鏡検査や血液検査で異常がない

このような点で薬を止めてみたいと考える場合には、医師に相談の上指示を仰いでください。

 

再発を防ぐ!薬に頼らない生活習慣のコツ

薬を減らしたりやめたりするためには、生活習慣の見直しが欠かせません。ここでは、実践しやすい改善法を紹介します。

食事編:胃にやさしい食生活を

控えたい食品 理由
脂っこい料理 胃の動きが鈍くなり、逆流を起こしやすい
チョコ・コーヒー 食道括約筋を緩める作用がある
アルコール・炭酸 胃酸の分泌を促進、膨満感の原因に

ポイント:食後すぐ横にならない、食事は腹八分目に

姿勢・運動・睡眠編

  • 就寝時の工夫:頭を15〜20cm高くして寝ることで胃酸逆流を防止

  • 体重管理:BMIを25未満に保つと、症状の改善が期待できます

  • 禁煙:タバコは食道括約筋の働きを弱め、症状を悪化させます

 

まとめ|「薬を続けても大丈夫」は正しいが、ずっと頼らない工夫を

逆流性食道炎は慢性的になりやすく、薬物治療が長期化するケースも少なくありません。しかし、薬を適切に使い、生活習慣を改善することで、薬を減らす、やめる、再発を防ぐことは可能です。

最後に押さえておきたい3つのポイント

  1. 薬(特にPPI)は効果的だが、長期使用には副作用リスクがある

  2. 医師と相談しながら減薬・中止のタイミングを見極めよう

  3. 生活習慣の改善が根本的な予防と再発防止につながる

薬に依存せず、自分の体を整える力を育てることが、健康への一歩です。もし不安がある場合は、必ず専門医に相談しましょう。

 

🔍 引用・参考文献

  1. Lazarus B, et al. Proton Pump Inhibitors and Risk of Chronic Kidney Disease. JAMA Intern Med. 2016;176(2):238–246.

  2. Yu EW, et al. Long-term use of proton pump inhibitors and risk of fracture. Curr Gastroenterol Rep. 2011;13(6):489–496.

  3. 日本消化器病学会. GERD診療ガイドライン 2021年改訂版.

 

【監修者】

かわぐち内科・内視鏡クリニック

川口 佑輔

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