お腹の症状でよく使う薬について解説

不快感が生活の質を大きく下げてしまいます。多くの人が経験するこれらの症状に対し、薬局には様々な胃腸薬が並び、「どれを選べばいいの?」と迷ってしまう方も少なくないでしょう。
消化器内科専門医として、本記事では胃痛、胸やけ、消化不良、下痢、便秘といった症状別に、効果的な薬の種類とその作用を詳しく解説します。さらに、市販薬と処方薬の選び方、注意すべき副作用、薬の飲み合わせ、そして意外と知られていない胃酸抑制剤の長期服用リスクまで、幅広い情報を網羅。正しい知識を得て、あなたのお腹の悩みを解決し、快適な毎日を取り戻すための一歩を踏み出しましょう。
目次
お腹の症状別!消化器の薬の種類と効果
お腹の不調は、胃痛、胸やけ、胃もたれ、下痢、便秘など、本当にさまざまな形で私たちの日常に影響を与え、つらいものです。健康な胃腸は食事を楽しみ、消化吸収をスムーズに行いますが、不調時には食欲不振や不快感が生活の質を大きく下げてしまいます。このような症状に悩まされているとき、どのような薬を選べば良いのか迷ってしまう方も多いのではないでしょうか。
消化器内科専門医として、日々患者さんと接する中で感じるのは、「自分の症状に合った薬を知ること」が、症状を和らげ、快適な生活を取り戻すための第一歩だということです。この項目では胃腸薬を、①胃酸を抑える薬、②胃を守る薬(胃粘膜保護薬)、③胃腸の動きを良くする薬、④便秘の薬、⑤下痢・過敏性腸症候群、⑥整腸剤、⑦肝臓・胆のうの薬、⑧消化酵素薬、⑨漢方系の9種類に分けて解説します。。ここでは、お腹の症状ごとに、どのような種類の薬があるのか、そしてそれぞれの薬がどのように作用するのかを、私の視点から分かりやすく解説いたします。
胃痛・胸やけに効く胃酸抑制剤
胃の痛みや胸やけは、胃酸が食道に逆流したり、胃の粘膜を刺激したりすることで起こることがほとんどです。特に、食生活の乱れやストレスが胃酸過多を招き、これらの症状を悪化させることがあります。このような症状を和らげるためには、胃酸の分泌を抑える薬や、すでに分泌された胃酸を中和する薬が有効です。これらは「胃酸分泌抑制系胃腸薬」に分類されます。

| 系統 | 一般名 | 商品名 | 作用 | 特徴 | 主な副作用 |
|---|---|---|---|---|---|
| P-CAB | ボノプラザン | タケキャブ | 胃酸を強力に止める | 効果が早く、夜間の胃酸も抑える | 下痢、便秘 |
| PPI | エソメプラゾール | ネキシウム | 胃酸を減らす | 逆流性食道炎・潰瘍の基本薬 | 下痢、腹部不快感 |
| ランソプラゾール | タケプロン | 胃酸を減らす | 逆流性食道炎・潰瘍の基本薬 | 下痢、発疹 | |
| H2ブロッカー | ファモチジン | ガスター | 胃酸の出すぎを抑える | 昔ながらの胃酸抑制薬 | 眠気、便秘 |
胃酸分泌抑制剤
- 胃酸が作られるのを根本から減らす薬です。
- 主な種類には、「ヒスタミンH2受容体拮抗薬(H2ブロッカー)」や「プロトンポンプ阻害薬(PPI)」があります。
- H2ブロッカーは、胃酸分泌の指令をブロックすることで、胃酸の分泌量を減らします。
- 代表的な市販薬には「ガスター10」などがあり、胃酸過多による胃炎や逆流性食道炎などの症状に効果的です。
- PPIは、胃酸を作り出すポンプの働きをより強力に抑え、胃酸の分泌を強力に抑制します。
- P-CABはPPIより更に強い胃酸分泌抑制作用があり、最近では胃潰瘍治療としての第一選択になりつつあります。
- 胃酸分泌抑制剤は、症状を強力に抑える一方で、飲みすぎには注意が必要です。
- 特に小腸内細菌異常増殖症(SIBO)の患者さんでは、胃酸が過度に抑制されることで、小腸での細菌増殖を助長する可能性も指摘されています。
- ご自身の判断で長期間連用することは避け、医師や薬剤師に相談してください。
これらの薬は、胃酸による刺激を減らし、胃や食道の粘膜を保護する手助けをします。ご自身の症状や生活習慣に合わせて、適切な薬を選ぶことが大切です。
胃を守る薬(胃粘膜保護薬)
胃粘膜保護薬は名前の通り、胃の粘膜を守り保護することで症状を抑えるための薬です。

| 系統 | 一般名 | 商品名 | 作用 | 特徴 | 副作用 |
|---|---|---|---|---|---|
| 胃粘膜保護薬 | レバミピド | ムコスタ | 胃の粘膜を修復・保護 | 安全性が高く併用しやすい | 下痢、便秘 |
| テプレノン | セルベックス | 胃の防御力を高める | 胃もたれに使用 | 便秘 | |
| スクラルファート | アルサルミン | 潰瘍部分を覆って守る | 潰瘍治療の補助 | 便秘 |
レバミピド
- 胃酸を抑える薬ではなく、胃の内側を守る力を高め、荒れた粘膜の回復を助ける薬です。
- 胃酸を抑える薬と一緒に使われることも多く、胃をやさしく治したい場合に適した薬です。
テプレノン
- 胃の粘膜を丈夫にし、刺激から守る薬です。
- 胃痛が強くないものの、胃が弱っている感じがする方や、胃もたれが続く方に使われることが多い薬です。
スクラルファート
- 胃の粘膜の傷ついた部分にくっついて膜を作り、患部を守る薬です。
- 胃潰瘍や強い胃炎の治療で、胃酸を抑える薬と併用されることが多い薬です。
胃腸の動きを良くする薬

| 系統 | 一般名 | 商品名 | 作用 | 特徴 | 副作用 |
|---|---|---|---|---|---|
| 消化管運動改善薬 | アコチアミド | アコファイド | 機能性ディスペプシアに唯一適応のある薬 | 食後のもたれ・早期満腹感 | 下痢 |
| モサプリド | ガスモチン | 胃腸の動きを促進 | 胃もたれ・逆流症状 | 下痢 | |
| 吐き気止め | メトクロプラミド | プリンペラン | 吐き気を抑える | 吐き気・嘔吐時 | 眠気(まれ) |
アコチアミド
- 胃の動きを整えることで、胃もたれや早期満腹感を改善する薬です。主に「機能性ディスペプシア」と呼ばれる胃の不調に使われます。
- 胃酸を抑える薬とは異なり、胃の働きそのものを整えたい場合に適した薬です。
モサプリド
- 胃や腸の動きを活発にし、食べ物の流れを良くする薬です。
- 比較的使いやすく、胃酸を抑える薬と一緒に処方されることも多い薬です。
メトクロプラミド
- 吐き気を抑えながら、胃の動きを助ける薬です。
- 吐き気や嘔吐が強いときに使われますが、長期間の使用は避けることが多い薬です。
便秘の薬
いわゆる下剤です。 便秘にタイプにより使用する薬剤も異なりますので、外来にて医師にご相談下さい。
| 系統 | 一般名 | 商品名 | 作用 | 特徴 | 副作用 |
|---|---|---|---|---|---|
| 浸透圧性下剤 | 酸化マグネシウム | マグミット | 便に水分を集める | 毎日使いやすい | お腹の張り |
| ポリエチレングリコール | モビコール | 便をやわらかくする | 小児・高齢者も使用可 | 腹部膨満 | |
| 刺激性下剤 | センノシド | プルゼニド | 腸を刺激して排便 | 効き目が強い | 腹痛 |
| ピコスルファート | ラキソベロン | 大腸を刺激 | 頓用向き | 下痢 | |
| 腸の働きを整える薬 | ルビプロストン | アミティーザ | 腸から水分を出す | 慢性便秘 | 吐き気 |
| リナクロチド | リンゼス | 腸の感覚と水分調整 | 便秘型IBS | 下痢 | |
| 胆汁酸関連薬 | エロビキシバット | グーフィス | 大腸を刺激 | いきみにくい便秘 | 腹痛 |
詳しくは『便秘薬の作用機序と特徴を専門医が徹底解説』をご覧ください。
下痢・過敏性腸症候群(IBS)の薬
下痢といっても原因により対処法は異なります。 例えば感染性腸炎であれば止痢薬(便を止める薬)は禁忌となります。 ここでは過敏性腸症候群下痢型を中心とした慢性的に持続する下痢の薬について記載します。
| 系統 | 一般名 | 商品名 | 作用 | 特徴 | 副作用 |
|---|---|---|---|---|---|
| 止痢薬 | ロペラミド | ロペミン | 腸の動きを抑える | 急な下痢に使用 | 便秘 |
| IBS治療薬 | ラモセトロン | イリボー | 腸の過敏を抑える | 下痢型IBS | 便秘 |
| 腸内調整薬 | ポリカルボフィルCa | コロネル | 便の水分を調整 | 下痢・便秘両方 | お腹の張り |
ロペラミド
- 腸の動きをゆっくりにして、水分が吸収される時間を作る薬です。
- 効果がはっきりしていますが、使いすぎると便秘になることがあるため注意が必要です。
ラモセトロン
- 腸の過剰な反応を抑えることで、下痢型過敏性腸症候群を改善する薬
- 即効性というより、毎日続けて腸の状態を整える薬です。
メトクロプラミド
- 便の水分を吸ったり放したりして、便の状態を整える薬で、下痢型・便秘型・混合型過敏性腸症候群全てに使用できる薬です。
- 腸の動きを無理に止めないため、IBSのベース治療としてよく使われます。
整腸剤
整腸剤は感染性腸炎の時や、腸内細菌の乱れが予想される病態の時に使用する薬です。
| 系統 | 一般名 | 商品名 | 作用 | 特徴 | 主な副作用 |
|---|---|---|---|---|---|
| 乳酸菌製剤 | ラクトミン | ビオフェルミン | 腸内の善玉菌を増やす | お腹の調子を整える基本薬 | ほとんどなし |
| ラクトミン | ビオフェルミンR | 抗生物質使用中も使える | 下痢・軟便予防 | ほとんどなし | |
| 酪酸菌製剤 | 酪酸菌 | ミヤBM | 腸内環境を改善 | 抗生物質と併用可 | お腹の張り |
| ビフィズス菌製剤 | ビフィズス菌 | ビオフェルミンBB | 腸内のバランス調整 | 便秘・下痢両方に | 軟便 |
| 糖化菌製剤 | 糖化菌 | ビオスリー | 複数菌で腸を整える | 便秘・下痢両用 | 腹部膨満 |
様々なタイプの整腸剤がありますが、そこまで大きな差はありません。
肝臓・胆のうの薬
| 系統 | 一般名 | 商品名 | 作用 | 特徴 | 副作用 |
|---|---|---|---|---|---|
| 肝臓を守る薬 | グリチルリチン | 強ミノC | 肝臓の炎症を抑える | 点滴で使用されることも | むくみ |
| 胆汁の薬 | ウルソデオキシコール酸 | ウルソ | 胆汁の流れを改善 | 胆石・肝機能改善 | 下痢 |
グリチロン
- 肝臓の炎症を抑え、肝細胞を保護する薬です。
- 長期使用ではむくみや血圧上昇が起こることがあるため、定期的な検査が大切です。
ウルソデオキシコール酸
- 胆汁の流れを良くし、肝臓や胆のうの働きを助ける薬です。
- 脂肪肝や胆石症、胆汁うっ滞など、幅広い肝・胆道系疾患に使用される薬です。
消化酵素薬
食事をすると下痢をしやすい、脂っこい便が出る、体重が減ってきたといった症状は、消化酵素が足りていないことが原因の場合があります。 特に、膵臓の働きが低下すると、食べ物を十分に消化できなくなります。
| 系統 | 一般名 | 商品名 | 作用 | 特徴 | 副作用 |
|---|---|---|---|---|---|
| 膵消化酵素薬 | パンクレリパーゼ | リパクレオン | 消化酵素を補う | 膵機能低下時 | 下痢 |
| 消化酵素配合剤 | 消化酵素配合剤 | ベリチーム | 食べ物を消化しやすくする | 胃もたれ・消化不良 | 下痢(まれ) |
パンクレリパーゼ
- 膵臓から分泌される消化酵素を補う薬です。
- 膵臓の病気がある方に使われることが多く、食事のたびに服用することが重要です。
ベリチーム
- 複数の消化酵素を含み、食べ物の分解を助ける薬です。
- 膵臓の機能が大きく低下していない場合に使われ、軽い消化不良や胃もたれに適した薬です。
漢方薬で症状を和らげる
お腹の不調に対しては、西洋医学の薬だけでなく、漢方薬も有効な選択肢の一つです。西洋薬が症状を直接抑えるのに対し、漢方薬は体全体のバランスを整えることで、不調の原因にアプローチします。これは、その方の体質や症状を総合的に見て判断する、漢方医学ならではの考え方です。漢方薬は「漢方系胃腸薬」として市販されているものもあり、「大正漢方胃腸薬」などが代表的です。
漢方医学では、一人ひとりの体質や病状を「証(しょう)」という概念でとらえ、それに合わせて最適な漢方薬を選びます。同じお腹の症状であっても、冷えが原因なのか、ストレスが原因なのかなどによって、処方される漢方薬は異なります。医師や薬剤師は、患者さんの体質や体格、症状、生活習慣などを詳しく問診し、最も適した漢方薬を判断します。
お腹の症状によく使われる漢方薬の例としては、以下のようなものがあります。
胃痛・胃もたれに
安中散(あんちゅうさん)
- 胃が冷えやすく、神経質で胃痛や胸やけを起こしやすい方に用いられます。
- 胃腸の冷えや機能低下を改善し、痛みを和らげます。
六君子湯(りっくんしとう)
- 胃の働きが弱く、食欲不振や胃もたれ、吐き気がある方に用いられます。
- 胃腸の運動を助け、消化吸収機能を高める効果が期待できます。
下痢に
胃苓湯(いれいとう)
- 水あたりや食あたりによる急な下痢、むくみやすい方に用いられます。
- 余分な水分を体から排出し、下痢を抑える効果があります。
半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)
- みぞおちのつかえや吐き気、下痢を伴うストレス性の胃腸症状に用いられます。
- ストレスによる自律神経の乱れを整え、胃腸の不調を改善します。
便秘に
大黄甘草湯(だいおうかんぞうとう)
- 比較的体力のある方で、頑固な便秘に用いられます。
- 腸の動きを活発にし、排便を促す効果があります。
麻子仁丸(ましにんがん)
- 高齢者や体力のない方で、便が硬くて出にくい方に用いられます。
- 便に潤いを与え、排便をスムーズにする効果が期待できます。
吐き気に
小半夏加茯苓湯(しょうはんげかぶくりょうとう)
- つわりなど、吐き気や嘔吐があるが食欲もある方に用いられます。
- 胃のむかつきや吐き気を鎮める効果があります。
漢方薬は、西洋薬に比べて副作用が少ないとされていますが、体質に合わない場合は症状が悪化することもあります。ご自身の体質や症状に合った漢方薬を選ぶためにも、専門の医師や薬剤師に相談することをおすすめします。
市販薬・処方薬の選び方と服用時の注意点
お腹の不調を感じた時、手軽に市販薬を選ぶ方もいれば、病院を受診して処方薬を受け取る方もいらっしゃるでしょう。しかし、たくさんある薬の中から自分に合ったものを選ぶのは、時に迷いや不安を伴うものです。そして、選んだ薬を正しく使うためには、他の薬との飲み合わせや、思わぬ副作用についても知っておくことが大切です。ここでは、お腹の症状に使う薬の選び方や、安心して服用するために知っておきたい注意点について、消化器内科専門医の視点から具体的に詳しくお話ししていきます。