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便秘の薬はどれがいい?最新ガイドラインに基づく正しい選び方と治療法

[2025.06.11]

便秘は多くの人が悩む症状の一つですが、「たかが便秘」と軽く見ていませんか?実は、便秘は医療的に対処すべき「病気」として定義されており、特に慢性化している場合は適切な診断と治療が必要です。

本記事では、2023年に改訂された『慢性便秘症診療ガイドライン』をもとに、便秘の内服薬の種類や選び方、さらには生活改善による対策までを詳しく解説します。

 

便秘とは?|最新ガイドラインが示す「病気としての便秘」

「たかが便秘」ではない理由

便秘とは、単に「便が出にくい」状態を指すのではなく、医学的には以下のように定義されています。

「排便回数の減少(週に3回未満)や、排便困難、残便感などが慢性的に続く状態」
— 『慢性便秘症診療ガイドライン2023』

日本人の約2,200万人が便秘に悩んでいるとされ、特に女性、高齢者、運動不足の人に多くみられます。便秘は放置すると、QOL(生活の質)を低下させるだけでなく、痔や腸閉塞、認知機能の低下なども招く可能性があります。

便秘のタイプと診断基準

便秘にはいくつかのタイプがあります。

タイプ 特徴 主な原因
機能性便秘 器質的異常がない 食生活、ストレス、加齢、生活習慣など
器質性便秘 腸の病変などによる 癌、炎症性腸疾患、腸閉塞など
薬剤性便秘 薬の副作用による 鉄剤、抗コリン薬、オピオイドなど

『日本消化器病学会関連研究会慢性便秘の診断治療研究会編:慢性便秘症診療ガイドライン2017』にて便秘の診断基準は表の様に記されています。

 

『便秘症』の診断基準
以下の6項目のうち、2項目以上を満たす
  • 排便の4分の1超の頻度で、強くいきむ必要がある。
  • 排便の4分の1超の頻度で、兎糞状便または硬便である。
  • 排便の4分の1超の頻度で、残便感を感じる。
  • 排便の4分の1超の頻度で、直腸肛門の閉塞感や排便困難感がある。
  • 排便の4分の1超の頻度で、用手的な排便介助が必要である(摘便・会陰部圧迫など)。
  • 自発的な排便回数が、週に3回未満である。
『慢性』の診断基準
6ヶ月以上前から症状があり、最近3ヶ月間は上記の基準を満たしていること。

便秘の疾患概要について詳しくは こちら をご覧ください。

 

便秘に使われる内服薬の基本|どんな薬があるの?

便秘薬の主な役割

便秘薬(下剤)は、「一時的に出すための薬」としてではなく、腸の動きを整えたり、便を出しやすくするための医薬品です。種類によって作用の仕方が異なり、症状や体質に応じて使い分けることが重要です。

内服薬の4分類とその特徴

便秘の内服薬には主に以下のような種類があります。

分類 主な薬剤 作用機序 特徴
浸透圧性下剤 酸化マグネシウム、ラクツロース 腸内に水分を引き込み、便を柔らかくする 初期治療に推奨される、安全性が高い
刺激性下剤 センノシド、ピコスルファート 腸の神経を刺激して蠕動運動を促進 効果が強いが、長期使用は注意
上皮機能変容薬 ルビプロストン、リナクロチド 腸液分泌を促進して排便を促す 慢性便秘の第一選択薬
胆汁酸薬 エロビキシバット 胆汁酸の作用で腸を刺激し排便を促す 食後に服用、自然に近い排便を実現
 

便秘の内服薬・坐薬の種類と作用機序

まず、便秘において使用される内服薬を列挙します。
 
一般名 商品名 作用機序 副作用 特徴
センノシド プルゼニドなど 大腸粘膜を刺激し蠕動運動を促進 腹痛、下痢、耐性形成 即効性あり。連用に注意
アローゼン アローゼン顆粒 センナ由来で腸管を刺激 腹痛、下痢、耐性形成 高齢者にも使用される。漢方系刺激性
ピコスルファートナトリウム ラキソベロン 腸内細菌で活性化し、大腸を刺激 腹痛、下痢、耐性形成 液剤で調整しやすい
酸化マグネシウム マグミットなど 水分を腸管内に引き込む 高マグネシウム血症 穏やかな効果。習慣性少ない
ポリエチレングリコール(PEG) モビコール 水分を保持して便を軟化 腹部膨満、吐き気 小児にも使用可能。味にクセあり
D-ソルビトール ソルビトール液 腸管内の浸透圧を上げ水分保持 腹部膨満、下痢 経口または点滴で使用。即効性あり
エロビキシバット(グーフィス) グーフィス 胆汁酸トランスポーター阻害 腹痛、下痢 食前服用。胆汁酸再吸収抑制
リナクロチド リンゼス グアニル酸シクラーゼC受容体作動薬 下痢、腹痛 分泌促進型。便秘型IBSにも適応
ルビプロストン アミティーザ クロライドチャネル活性化により分泌促進 吐き気、下痢 慢性便秘・IBS-Cにも適応
ビサコジル(坐薬) テレミンソフト 直腸粘膜を刺激 刺激痛、直腸刺激感 即効性あり。排便誘導目的で使用
グリセリン グリセリン浣腸 浸透圧と機械的刺激で排便促進 直腸刺激、依存性 即効性。使いすぎに注意
大黄甘草湯 ツムラ6番など 大黄による腸管刺激と甘草の緩和作用 腹痛、下痢 漢方由来。即効性あり
大建中湯 ツムラ100番など 腸管血流・運動促進 胃部不快感 冷えによる便秘に使用
麻子仁丸 ツムラ120番など 潤腸作用(油脂と麻子仁) 軽い下痢 高齢者・虚弱者向け

浸透圧性下剤:まず試したい第一選択薬

酸化マグネシウムなどの浸透圧性下剤は、水分を腸内に引き込み、便を柔らかくする作用があります。ガイドラインでも初期治療の第一選択薬として位置づけられており、安全性が高いのが特徴です。ただし、酸化マグネシウムは腎機能が低下している人では高マグネシウム血症のリスクがあるため注意が必要です。

刺激性下剤:短期使用に限定

センノシドやピコスルファートなどは腸の神経を直接刺激して排便を促します。即効性が高いため一時的な使用に適していますが、長期使用は避けるべきです。ガイドラインでは「連用による依存や耐性のリスク」があることが指摘されています。

上皮機能変容薬・胆汁酸薬:新しい治療の選択肢

  • ルビプロストン:腸の上皮細胞に働きかけて腸液分泌を促進

  • リナクロチド:腸内のcGMPを増加させ、排便を促す

  • エロビキシバット:胆汁酸による腸の自然な刺激で排便を促進

これらの薬剤は慢性便秘の新しい標準治療薬として注目されており、自然な便意に近い排便を促す点が特徴です。

 

内服薬の選び方|効果的かつ安全な服用方法とは?

ガイドラインに基づいた薬の選び方

便秘治療では、以下のように段階的に薬剤を選ぶことが推奨されています。

ステージ 推奨治療
初期 浸透圧性下剤(酸化マグネシウム)
改善が見られない場合 上皮機能変容薬や胆汁酸薬の併用
必要時のみ 刺激性下剤を短期間使用

副作用・依存性にも注意

センノシドやピコスルファートなどの刺激性下剤は、使用していくうちに効かなくなったり、やめられなくなったりするリスクのある薬剤です。

また酸化マグネシウムは腎機能障害のある方には禁忌であり、ルビプロストンは内服初期に嘔気を伴いやすいという副作用が有名です。

薬剤 注意点
センノシド、ピコスルファート 耐性・依存性リスクあり
酸化マグネシウム 腎機能低下時に高マグネシウム血症
ルビプロストン 吐き気、腹部膨満感
リナクロチド 軟便・下痢になりやすい

市販薬と処方薬の違い

比較項目 市販薬 処方薬
主成分 刺激性下剤が中心 多様な選択肢あり
安全性 自己判断による誤用リスク 医師の診察・指導あり

市販薬は手軽ですが、長期使用や体質に合わない使用は避けましょう。慢性化している便秘は医師の診断が必須です

当院の便秘診療 ~薬の使い方~

診断 

便秘診療の第一ステップは、その便秘が機能性便秘なのか、器質的便秘なのかを鑑別するところから始まります。

必要に応じて大腸カメラを行い、器質的便秘の代表格である大腸がんでない事を確認する事が大切です。

投薬 

大腸がんなどの器質的疾患が無い事が分かったら、機能性便秘(いわゆる便秘)として内服加療を開始します。

今までに何も薬を使用した事が無い方

①酸化マグネシウムの処方を行います。

②酸化マグネシウムで効果のない場合には

  1. ポリエチレングリコール(PEG)
  2. エロビキシバット(グーフィス)
  3. ルビプロストン 

    の中から、患者様の状態に合わせて薬剤を選択します。

③それでも効果が乏しい場合

  1. 漢方の併用
  2. センノシドやピコスルファートなどの屯用を併用

    のどちらかを検討します。

過敏性腸症候群便秘型を疑う場合

早めにリナクロチドを試す場合があります。

 

これらの治療により90%以上の患者様は、100%改善しないまでも、最低限の効果を実感し日常のQOLが大きく改善されています。

 

薬に頼りすぎない!生活改善による便秘対策

非薬物療法が治療の基本

便秘は生活習慣と密接に関係しています。薬だけに頼るのではなく、以下の生活改善を並行して行うことで、薬の使用量を減らすことも可能です。

改善項目 内容
食事 食物繊維1日20g以上、水分をしっかり摂取
運動 毎日30分のウォーキング
排便習慣 朝の排便リズムを作る
睡眠 規則正しい生活リズム
ストレス対策 趣味やリラックス法を取り入れる

食物繊維をしっかりとる

種類 食品例 効果
水溶性 海藻、オートミール 便を軟らかくする
不溶性 ごぼう、玄米 腸を刺激し、便量を増やす

腸活習慣で自然な排便を

  • 発酵食品(ヨーグルト、味噌など)を毎日取り入れる

  • 起床時や食事前の水分補給

  • お腹を温める・マッサージする

 

【まとめ】便秘薬の正しい知識と使い方で、快適な毎日を取り戻そう

便秘は医療的に対処すべき病気であり、薬物療法と生活改善の両立が成功の鍵です。ポイントは以下の通りです。

  • ガイドラインに基づいた薬剤選択が大切

  • 薬の乱用・依存は避けるべき

  • 生活習慣を見直し、腸の働きを整える

長引く便秘や市販薬に頼り続けている方は、ぜひ一度医療機関を受診し、自分に合った治療を受けてください。薬と生活改善をバランスよく活用することで、便秘を根本から改善し、快適な日常を取り戻しましょう。

 

引用文献・ガイドライン

  • 日本消化器病学会編「慢性便秘症診療ガイドライン 2023」

  • Rao SSC, Rattanakovit K, Patcharatrakul T. Diagnosis and Management of Chronic Constipation in Adults. Nat Rev Gastroenterol Hepatol. 2016;13(5):295–305.

  • Camilleri M, Ford AC, Mawe GM, et al. Chronic constipation. Nat Rev Dis Primers. 2017;3:17095.

 

【監修者】

かわぐち内科・内視鏡クリニック

川口 佑輔

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