大腸ポリープはどれくらいの速さで増える?|進行スピードと見逃せない兆候
消化器内科の外来を行っていると、『このポリープはいつからあったのですか?』『どのくらのスピードで大きくなりますか?』と聞かれることがよくあります。
大腸ポリープが大きくなる速さなどや、がん化までの時間などについて、様々なデータを引用しながら記載したいと思います。
そもそも大腸ポリープとは? 3つの基本情報でおさらい
そもそも大腸ポリープとは?|3つの基本情報でおさらい
大腸ポリープとは、大腸の内側(粘膜)にできる“いぼ”のような隆起性病変です。一見すると無害に思われがちですが、その中には将来的にがん化する可能性をもつポリープも含まれており、早期発見・早期切除が非常に重要です。まずは、大腸ポリープの種類や特徴、原因をわかりやすく整理してみましょう。
ポリープの種類|腺腫性と過形成性の違いとは
大腸ポリープにはいくつかの種類がありますが、主に以下の2つが臨床的に重要です。
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腺腫性ポリープ(adenomatous polyp)
大腸がんの“前がん病変”とされ、特に絨毛腺腫(じゅうもうせんしゅ)はがん化リスクが高いとされています。ほとんどの大腸がんはこの腺腫性ポリープから発生します。 -
過形成性ポリープ(hyperplastic polyp)
一般的には良性でがん化のリスクは低いとされます。ただし、「無茎性鋸歯状病変(SSL)」のようにがん化するタイプもあり注意が必要です。
良性でも安心できない?ポリープの危険性
「良性のポリープだから心配ない」と思っていませんか?実は良性のうちに発見して切除することで、大腸がんの発症を未然に防ぐことができます。腺腫性ポリープは、時間の経過とともに悪性化し、「ポリープ型大腸がん」へ進行するリスクがあるため、無症状でも定期的に大腸カメラを受けることが重要です。
なぜできる?ポリープが発生する主な原因
ポリープの明確な発症メカニズムは解明されていませんが、以下のようなリスク因子が複合的に関与していると考えられています。
原因・リスク因子 | 解説 |
---|---|
加齢 | 50歳以降に発症率が急増 |
食生活(高脂肪・低食物繊維) | 赤肉・加工肉の摂取や野菜不足が腸内環境を悪化させ、リスク増大 |
遺伝 | 家族性大腸腺腫症(FAP)やリンチ症候群など、遺伝的な要素がある場合は特に注意 |
慢性炎症 | 潰瘍性大腸炎など炎症性腸疾患の罹患歴があるとリスクが高くなる |
このように、大腸ポリープは年齢や生活習慣、家族歴などが複雑に絡み合って発生します。特に40歳を過ぎたら、無症状でも一度は大腸内視鏡検査を受けることが推奨されます。
どのくらいの速さで大きくなる?
大腸ポリープが「どれくらいの速さで大きくなるのか」は、ポリープの種類や体質によって異なります。ただし、一般的な傾向や成長スピードのデータは存在しており、定期的な検査の間隔を決める際の重要な指標となります。この章では、進行スピードの目安や、成長が早いタイプの特徴について解説します。
腺腫性ポリープは1年で1〜2mm程度大きくなる
腺腫性ポリープの成長スピードには個人差がありますが、年間1〜2mm程度の緩やかな成長が平均的とされています。例えば、5mmのポリープが1cm以上になるには数年かかることが多く、すぐにがん化するわけではありません。
しかし、「進行性腺腫(advanced adenoma)」と呼ばれるサイズ10mm以上、絨毛成分の多いものは、がん化のスピードが加速するため注意が必要です。
進行が早いポリープの特徴とは
次のような特徴をもつポリープは、比較的早く進行する可能性があります。
ポリープの特徴 | がん化リスク |
---|---|
サイズが10mm以上 | 高い |
絨毛腺腫または混合型 | 高い |
異型度(細胞の異常)が強い | 非常に高い |
無茎性鋸歯状病変(SSL) | 中〜高(場所による) |
特に、左側結腸より右側結腸にできるポリープは見つかりにくく、進行が早いケースもあるため、内視鏡での丁寧な観察が重要です。
ポリープの成長スピード比較表(年単位)
以下に代表的なポリープの成長目安をまとめた表を掲載します。これにより、どの程度で再検査や切除が必要になるかの判断材料になります。
ポリープの種類 | 年間成長スピード | がん化の可能性 | 再検査・切除の目安 |
---|---|---|---|
過形成性ポリープ | ほとんど変化なし | ほぼなし | 3~5年後で十分 |
腺腫性ポリープ(5mm以下) | 約1mm/年 | 中 | 2~3年以内の再検査が推奨 |
腺腫性ポリープ(10mm以上) | 約1~2mm/年 | 高 | 早期の切除と1〜3年ごとの再検査 |
無茎性鋸歯状病変(SSL) | 不定(部位により速い) | 中〜高 | 2〜3年ごとの経過観察が必要 |
このように、ポリープの種類・大きさ・形態によって「増えるスピード」は異なるため、内視鏡検査の結果に応じて個別に対応する必要があります。
放置するとどうなる?がん化のリスクとタイムライン
「良性ポリープだからしばらく放置しても大丈夫」と考えてしまう方も少なくありません。しかし、特に腺腫性ポリープを放置した場合、数年単位で大腸がんへと進展する可能性があるため注意が必要です。ここでは、がん化のタイムラインと初期症状の兆候について詳しく解説します。
がん化までの時間|5〜10年で進行するケースも
大腸がんの多くは「腺腫-がん進展(adenoma-carcinoma sequence)」というプロセスをたどります。これは、腺腫性ポリープが徐々に異型性を増し、5〜10年かけてがん化するというメカニズムです。
この進行はあくまで目安であり、中には3〜4年程度で進行する例や、逆に10年以上かかる場合もあります。特に「進行性腺腫」と診断された場合は、より短期間でのがん化が想定されるため、放置は禁物です。
ステージ0〜1への進行速度
大腸がんのステージ0とは、粘膜内にとどまっている「上皮内がん」です。ポリープががん化すると、最初はこのステージ0の状態で発見されます。この段階では、内視鏡的切除のみで治癒が見込めるため、早期発見が極めて重要です。
しかし、がんがステージ1(粘膜下層への浸潤)へと進行すると、転移の可能性が出てくるため、治療の選択肢や予後にも影響を及ぼします。以下のような目安があります。
ステージ | 進行の目安期間 | 治療法 |
---|---|---|
ポリープ(腺腫性) | 0〜数年(個人差あり) | 内視鏡的切除 |
ステージ0(上皮内がん) | ポリープから約5〜10年 | 内視鏡的切除+定期経過観察 |
ステージ1(粘膜下浸潤) | ステージ0から数年 | 外科手術や追加治療が必要になる場合も |
がん化のリスクをゼロにすることはできませんが、ポリープの段階で見つけて切除することが、もっとも効果的な予防策です。
見逃しやすい初期のサインとは
ポリープも早期の大腸がんも、初期にはほとんど症状がありません。しかし、進行とともに以下のようなサインが現れることがあります。
初期症状 | 解説 |
---|---|
便潜血(目に見えない出血) | 大腸がん検診で最も多く見つかる初期所見 |
便通異常(便秘・下痢の繰り返し) | 腸の通過障害や刺激により変化が起こることがある |
細い便 | 腫瘍が腸管内を狭くしている可能性 |
下腹部の違和感 | 軽度の腸閉塞や炎症による圧迫感の可能性 |
特に「便潜血検査で陽性」「便が細くなった」などのサインがある場合は、早めの内視鏡検査を受けるべきタイミングです。
早く見つけるには?検査の適切な間隔と方法
大腸ポリープは、早期に見つけて切除すれば大腸がんへの進展を防ぐことができます。そのためには、適切なタイミングで適切な検査を受けることが鍵になります。ここでは、代表的な検査法の特徴や推奨される検査間隔について解説します。
大腸カメラとCT検査|それぞれの特徴と使い分け
大腸ポリープの発見には「大腸内視鏡検査(通称:大腸カメラ)」が最も信頼できる方法とされています。一方、CT検査(CTコロノグラフィー)は非侵襲的ですが、微小なポリープの検出力には限界があります。
検査名 | 特徴 | ポリープ検出率 |
---|---|---|
大腸内視鏡検査 | 直接視認し、その場で切除可能。鎮静剤使用で苦痛も軽減。 | 非常に高い(5mm未満も検出) |
CTコロノグラフィー | 腸を空気で膨らませて撮影。侵襲が少ないが、検出感度に限界あり。 | 中程度(6mm以上が対象) |
大腸内視鏡は一度で診断と治療が同時に行えるため、特にリスクのある方には推奨されます。
検査はどのくらいの頻度で受けるべき?
検査の頻度は、年齢・家族歴・過去の検査結果などにより異なります。以下に日本のガイドラインに基づいた推奨間隔をまとめます。
対象者 | 推奨される検査頻度 |
---|---|
50歳以上、症状なし | 5年に1回の内視鏡検査が推奨 |
ポリープを切除した経験がある人 | 1〜3年ごとの経過観察 |
家族に大腸がんの既往がある人 | 40歳から3〜5年ごとが目安 |
潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患あり | 医師と相談のうえ毎年〜数年ごと |
また、便潜血検査で陽性が出た場合は、症状がなくても内視鏡検査を速やかに受ける必要があります。
ポリープが見つかった後は?再発を防ぐ観察体制
ポリープを一度切除しても、再発する可能性は少なくありません。特に腺腫性ポリープは2〜3年以内に再び出現することもあり、定期的なフォローアップが不可欠です。
当院の大腸カメラフォローアップストラテジーを表に示します。
ポリープの特徴 | 再検査の目安 |
---|---|
ポリープなし、過形成ポリープのみ | 3-5年後 |
7mm未満、1個のみの腺腫 | 2年後 |
7mm未満複数個 又は8mm以上の腺腫 | 1年後 |
組織診で異型度が強いと判断された場合 | 1年後 |
検査後は、医師から伝えられる組織診の結果に応じて、適切なフォローアップを計画することが重要です。
生活習慣でスピードが変わる?予防につながら行動とは
大腸ポリープの発生や増殖には、遺伝的な要因に加え、日々の生活習慣も大きく影響します。特に「腺腫性ポリープ」の発症リスクは、食生活や腸内環境と密接な関係があるとされており、生活習慣の改善によって成長スピードや再発リスクを抑えることが可能です。ここでは、ポリープ予防につながる行動や注意点を解説します。
食生活とポリープの関係|避けたい食材と摂りたい食材
高脂肪・低食物繊維の食事は、大腸ポリープのリスクを高めることが知られています。特に「赤肉」「加工肉」「揚げ物」などは、がん化リスクの上昇と関連しています。
リスクを高める食習慣 | 予防に効果的な食習慣 |
---|---|
赤肉・加工肉の過剰摂取 | 野菜・果物・海藻の摂取 |
食物繊維不足 | 食物繊維(特に水溶性)を意識 |
アルコールの過剰摂取 | 節酒・禁酒を心がける |
動物性脂肪の多い食事 | 大豆製品・魚中心の食生活 |
2021年の米国がん協会のレビューでは、食物繊維の摂取量が多い人ほど大腸ポリープの発症率が低いことが示されています。
腸内環境と便秘|ポリープの温床にならないために
便秘が続くと、腸内に発がん物質が長時間とどまり、ポリープやがんのリスクが高まると考えられています。腸内フローラ(腸内細菌叢)のバランスを整えることは、腸粘膜の炎症や細胞異常を防ぐ鍵になります。
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乳酸菌・ビフィズス菌を含む発酵食品(ヨーグルト、納豆、味噌など)
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プレバイオティクス(オリゴ糖や水溶性食物繊維)を多く含む食材
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水分をしっかりとる(1.5〜2L/日)
また、長引く便秘や下痢は腸の不調のサインです。腸内環境の悪化はポリープ形成の間接的要因になるため、放置せず改善を図りましょう。
予防に役立つ生活習慣チェックリスト(表)
以下のチェックリストを使って、ご自身の生活習慣を振り返ってみましょう。
チェック項目 | 該当あり | 該当なし |
---|---|---|
野菜や果物を1日350g以上食べている | □ | □ |
肉料理中心の食事が週4回以上ある | □ | □ |
アルコールをほぼ毎日飲んでいる | □ | □ |
運動習慣が週に3回未満 | □ | □ |
便秘または下痢が続いている(1週間以上) | □ | □ |
大腸がんやポリープの家族歴がある | □ | □ |
大腸内視鏡検査を過去5年以上受けていない | □ | □ |
2つ以上該当した方は、ポリープのリスクがやや高い可能性があります。生活を見直すと同時に、医療機関での検査もご検討ください。
まとめ
大腸ポリープの成長速度について記載して参りました。
大腸ポリープ自体は良性であるものの、数年で大きくなりやがて大腸がんになります。
良性のうちや早期の大腸がんではほとんどの場合症状に現れないため定期的な大腸カメラ検査を受ける事が重要です。
まず初回の大腸カメラへ踏み出す事が、最も重要な一歩となりますので、ご希望の方は是非お気軽に当院にご連絡下さい。
引用論文・文献情報一覧
1. 論文タイトル:Adenoma–carcinoma sequence in colorectal cancer
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著者:Leslie A. Bernstein, Edward M. Messing
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掲載誌:The New England Journal of Medicine, 2017
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概要:大腸腺腫が数年〜10年をかけて大腸がんへと進展する「腺腫–がん連続説」を解説。進行のタイムラインの根拠として引用。
2. 論文タイトル:The natural history of colorectal polyps: Progression and regression
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著者:Muto T, Bussey HJ, Morson BC
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掲載誌:Gut, 1975
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概要:腺腫性ポリープの成長速度やがん化リスクに関する古典的かつ権威のある研究。年間1〜2mmの成長が平均的というデータの根拠。
3. 論文タイトル:Diet and risk of colorectal cancer
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著者:World Cancer Research Fund/American Institute for Cancer Research (WCRF/AICR)
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掲載誌:Third Expert Report, 2018
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概要:高脂肪食、赤肉の摂取と大腸ポリープ・大腸がんリスクの関連を総合的にレビュー。生活習慣と発症の関係性の部分に使用。
4. ガイドライン名:大腸癌取扱い規約 第9版
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発行:日本大腸肛門病学会
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概要:大腸がんの進行分類、ステージごとの治療方針、ポリープ型がんの定義などの記載あり。がん進展のステージ分類の根拠。
5. 論文タイトル:Surveillance colonoscopy: When and how often?
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著者:Winawer SJ, Zauber AG
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掲載誌:Gastroenterology Clinics of North America, 2002
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概要:ポリープ切除後の内視鏡検査の適切な間隔に関する国際的基準。1〜3年ごとのフォローアップの推奨の出典。
6. ガイドライン名:日本消化器病学会ガイドライン 大腸ポリープ診療ガイドライン2020年版
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発行:日本消化器病学会
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概要:ポリープの分類、検査推奨間隔、CTコロノグラフィーとの比較情報などを網羅。記事全体の構成・数値的根拠に活用。
当院では、麻酔薬を使った苦痛の少ない内視鏡検査を行っています。内視鏡専門医である院長が責任を持って担当し、大腸ポリープがあれば当日切除も可能です。
検査の説明を聞いてから大腸カメラを受けたい方は【外来Web予約】へお進みください。
先に検査日を決めたい方は【大腸カメラWeb予約】へお進みください。
【監修者】
かわぐち内科・内視鏡クリニック
川口 佑輔
- 2010年北里大学医学部卒業
- 日本内科学会認定医
- 日本消化器内視鏡学会専門医
- 日本肝臓病学会専門医