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ピロリ菌除菌後の正しい対応とは?ガイドラインに基づく再発予防と生活管理のすべて

[2025.06.12]

 

ピロリ菌(Helicobacter pylori)は胃がんや胃・十二指腸潰瘍の原因菌として知られており、その除菌治療は多くの人にとって重要な節目となります。しかし、「除菌できたからもう安心」と思っていませんか? 実は、除菌後こそ継続的な管理と生活習慣の見直しが必要なのです。

本記事では、最新のガイドラインや論文に基づき、除菌後の正しい対応や注意点をわかりやすく解説します。

 

ピロリ菌の詳しい解説(検査や除菌療法など)は こちら をご覧ください。

 

除菌後に起こる変化とリスクとは?

除菌で炎症は治まるが、胃がんのリスクはゼロではない

ピロリ菌を除菌すると、慢性胃炎などの炎症は改善しますが、すでに進行していた萎縮性胃炎や腸上皮化生(胃の粘膜が腸のように変化した状態)は元に戻りません。これが除菌後も胃がんリスクが持続する理由です。

ピロリ菌感染から胃がんまでの流れ

ピロリ菌の感染すると、胃粘膜には慢性的な胃炎変化を生じやがて萎縮性胃炎となります。さらに萎縮性胃炎から腸上皮化生(胃の粘膜が腸の粘膜のように変化する現象)となり、これが胃がんの発生母地になるとされています。
 
ピロリ菌感染

慢性胃炎

萎縮性胃炎

腸上皮化生

胃がん
※除菌はこの流れを途中で止めるが、進行していた病変は残ることも

注意すべき症状

基本的に、ピロリ菌感染があっても症状が出る事は少なく、ピロリ菌除菌後も症状の変化はほとんどの場合ありません。

除菌後でも以下の症状が出現する場合には、胃がんを生じている可能性があるため、早期の医療機関受診が推奨されます。

症状 注意点
食欲不振 粘膜異常や腫瘍の兆候の可能性あり
みぞおちの痛み 胃炎・潰瘍・腫瘍による痛みかも
黒い便(タール便) 消化管出血のサイン
体重の急激な減少 胃がんなどの悪性疾患の初期症状の可能性
 

ピロリ菌除菌後に胃食道逆流症が増える?その理由と実際のリスクとは

ピロリ菌除菌後、一部の患者で胃食道逆流症(GERD)が増加することが報告されています。これは、除菌によって胃の炎症が改善され、胃酸分泌が回復することが主な要因とされています。

実際、日本人を対象とした研究(Nakamura et al., 2009)では、ピロリ菌除菌後にGERD様症状が出現した割合は約10〜20%とされています。ただし、逆流性食道炎(びらん性GERD)の発症率は除菌前後で有意差がないとする報告もあり、必ずしも重症化するわけではありません。

ピロリ菌を除菌する最大のメリットは、胃がんリスクを大幅に低下させることです。逆流症状が生じた場合も、適切な生活習慣の見直しや薬物療法で対処可能なケースが多いため、除菌治療の価値は依然として高いといえるでしょう。

【参考文献】

  • Nakamura S, et al. Helicobacter pylori eradication and reflux esophagitis: a multicenter study in Japan. World J Gastroenterol. 2009.

  • 日本ヘリコバクター学会ガイドライン(2022年版)

 

最新ガイドラインが示す除菌後の対応とは?

日本ヘリコバクター学会の推奨

2023年に改訂された日本ヘリコバクター学会のガイドラインでは、除菌後の内視鏡検査による経過観察(サーベイランス)の重要性が明記されています。

リスクに応じた検査スケジュール

胃がんリスク 対応方法 推奨検査頻度
高リスク 萎縮・腸上皮化生が高度 年1回
中リスク 中等度萎縮あり 1〜2年に1回
低リスク 異常なし 3年に1回程度可

このように、リスク分類に応じて内視鏡検査の頻度を調整することが重要です。

当院の胃カメラ検査については苦痛の少ない胃カメラ検査をご覧ください。

除菌判定の方法

除菌の判定には以下のような検査があります:

  • 尿素呼気試験(UBT)

  • 便中抗原検査

  • 抗体検査(治療後すぐには不向き)

除菌後の効果判定の中で、ほとんどの場合尿素呼気試験が行われます。

除菌治療薬内服終了後、1カ月以上あけて効果判定の検査を行う必要があります。

 

胃がん予防のための生活習慣とは?

食生活の改善が第一歩

胃の健康を保つには、塩分の摂取制限抗酸化物質の摂取が鍵です。

積極的に摂りたい食品 控えたい食品
緑黄色野菜、果物 高塩分食品(漬物、味噌汁など)
発酵食品(味噌、ヨーグルト) 加工食品、スナック菓子
食物繊維(豆類、玄米など) 揚げ物、脂質の多い料理

禁煙・節酒

  • 喫煙は胃がんリスクを約2倍に増加(IARC, 2012)

  • アルコールは適量(日本酒1合/日以下)を目安

ストレス管理も重要

  • 睡眠:1日7〜8時間を目標に

  • 運動:週に2〜3回のウォーキング

  • リラックス法:瞑想、趣味、入浴など

 

よくある質問Q&Aとアドバイス

Q1:除菌したら胃がんの心配はもうないの?

A:いいえ、リスクはゼロにはなりません。
萎縮や腸上皮化生が残っていれば、がんになる可能性はあります。定期的な検査は継続しましょう。

Q2:ピロリ菌は再感染するの?

A:再感染の可能性はごくわずか(年間0.1〜0.5%)ですが、ゼロではありません。
特に小さな子どもや衛生環境が悪い地域では注意が必要です。

Q3:除菌後も胃の不快感があるのはなぜ?

A:機能性ディスペプシアの可能性があります。
胃の粘膜が回復するには時間がかかるため、症状が長引く場合は医師の相談を。

Q4:胃カメラは毎年受けるべき?

A:リスクが高い方は年1回が望ましい。
早期発見・早期治療のため、定期的な検査は非常に重要です。

Q5:ピロリ菌除菌後に、健康診断でピロリ菌陽性を指摘されました。どうすれば良いですか?

A:擬陽性の疑いがあります。
健康診断でのピロリ菌チェックは採血でのピロリ抗体で行われます。ピロリ抗体は除菌後の効果判定には向いておりませんのでご注意下さい。

 

まとめ:除菌後こそが「本当の予防」のスタート

ピロリ菌の除菌は胃がん予防の強力な手段ですが、除菌=完治ではありません。

  • 定期的な内視鏡検査

  • 生活習慣の見直し

  • 医師との継続的な連携

この3つを意識して実践することで、胃がんのリスクを最小限に抑え、健康な胃を長く保つことができます。

 

参考文献・ガイドライン

  1. Malfertheiner, P., et al. (2017). Management of Helicobacter pylori infection—the Maastricht V/Florence Consensus Report. Gut, 66(1), 6–30.

  2. Sugano, K., et al. (2015). Kyoto global consensus report on Helicobacter pylori gastritis. Gut, 64(9), 1353–1367.

  3. IARC (2012). Personal Habits and Indoor Combustions. IARC Monographs, Volume 100E.

  4. 日本ヘリコバクター学会 (2023). ヘリコバクター・ピロリ感染の診断と治療に関するガイドライン第6版(改訂2023年版).

 

【監修者】

かわぐち内科・内視鏡クリニック

川口 佑輔

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