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バレット食道とは?逆流性食道炎との違いと放置してはいけない理由を医師が解説

[2025.03.18]

はじめに:食道の粘膜が“胃”になる?バレット食道とは何か

「バレット食道」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。胃の不快感や胸焼けで内視鏡検査を受けた際に、医師から初めてこの名前を告げられて戸惑ったという方も少なくありません。バレット食道とは、食道の粘膜が胃の粘膜のように変化してしまう状態のことをいいます。

この変化は、見た目こそ小さな異常のように見えても、放置していると食道腺がんという悪性腫瘍につながる可能性がある前がん病変とされています。自覚症状が乏しいことが多く、気づかないうちに進行してしまうことがあるため、早期発見と定期的な観察が非常に重要です。

本記事では、バレット食道の成り立ちから原因、診断、治療法、そして生活習慣における予防策までを、医師の視点から詳しく解説していきます。

 

食道の役割と粘膜の種類:胃とは何が違う?

私たちが口にした食べ物は、食道を通って胃へと送られます。通常、食道の粘膜は「扁平上皮」と呼ばれる構造で、飲み物や食べ物の通過に耐えられるような丈夫な構造をしています。一方、胃の粘膜は「円柱上皮」と呼ばれ、胃酸などの強い消化液に耐える機能があります。

バレット食道では、この本来“扁平上皮”であるべき食道下部の粘膜が、胃に似た“円柱上皮”に置き換わってしまうのです。この変化は、長期間にわたる胃酸の逆流によって引き起こされると考えられています。

 

バレット食道と逆流性食道炎の関係

バレット食道の大きな原因となるのが、慢性的な胃酸の逆流です。つまり、多くの場合、バレット食道は逆流性食道炎の進行形として発生します。胃酸が食道に繰り返し逆流すると、扁平上皮がダメージを受け、それに耐えられるように胃の粘膜に似た構造に変化していきます。これがバレット粘膜と呼ばれる部分です。

逆流性食道炎があっても、すべての人がバレット食道になるわけではありません。しかし、逆流の頻度が多かったり、治療をせずに放置していたりすることで、リスクは確実に高まっていきます。

 

バレット食道はがんになるのか?

もっとも重要な点は、バレット食道が食道腺がんの前段階となる可能性があるという点です。食道がんというと、日本では扁平上皮がんが多いのですが、欧米ではこの食道腺がんの割合が増加しており、それに伴ってバレット食道が注目されるようになってきました。

バレット食道のすべてががん化するわけではありませんが、バレット粘膜に**異形成(異常な細胞増殖)**が見られる場合、がんへと進行するリスクが高まることがわかっています。そのため、発見された時点での状態や範囲に応じて、定期的な内視鏡による経過観察が必要になります。

 

バレット食道に特徴的な症状はある?

バレット食道自体は、自覚症状がほとんどありません。そのため、発見は偶然行われる内視鏡検査中というケースがほとんどです。症状がある場合には、逆流性食道炎に伴うものが主で、たとえば以下のような症状がみられます。

  • 胸やけ

  • のどの違和感

  • 胃のむかつき

  • 酸っぱい液が上がってくる感覚(呑酸)

  • 慢性的な咳

これらの症状が長期間続いている場合には、食道の慢性的な炎症や粘膜の変性が進んでいる可能性があるため、早めに消化器内科を受診することが望まれます。

 

診断には胃カメラが不可欠

バレット食道の診断には、上部消化管内視鏡(胃カメラ)検査が必要です。内視鏡で食道から胃への移行部を見ることで、バレット粘膜の有無や長さ、色調の変化などを観察できます。

また、必要に応じて組織の一部を採取し、病理検査で異形成やがんの有無を確認することもあります。とくにバレット食道の長さが3cmを超える「長節型」は、がん化リスクが高いとされており、より慎重な経過観察が求められます。

 

治療はどうする?基本は薬と定期観察

バレット食道の治療は、基本的には胃酸の逆流を抑える薬物療法が中心となります。具体的には以下のような薬が使われます。

  • プロトンポンプ阻害薬(PPI):胃酸の分泌を強力に抑制

  • カリウム競合型酸分泌抑制薬(P-CAB):近年登場した新しい選択肢

これらの薬を継続的に服用することで、食道への胃酸の刺激を軽減し、バレット粘膜の拡大やがん化の進行を抑えることが期待されます。また、異形成が認められた場合や、がん化の兆候がある場合には、**内視鏡的粘膜切除術(EMR)や粘膜下層剥離術(ESD)**など、治療的な内視鏡手術が選択されることもあります。

 

バレット食道が見つかったら一生治療が必要なのか?

バレット食道そのものを“治す”というよりは、進行させない・がん化させないように抑えるという管理のイメージが近いです。そのため、治療は継続的な内服と定期的な胃カメラ検査での経過観察が基本になります。

また、胃酸逆流の原因となる生活習慣を見直すことも、治療の一環として非常に重要です。

 

再発や悪化を防ぐ生活習慣の見直しが重要

胃酸の逆流を抑えるためには、生活全体の見直しが欠かせません。とくに以下のような習慣が、逆流のリスクを高めるとされています。

  • 食べすぎや早食い

  • 脂っこい食事、カフェイン、アルコール、チョコレート

  • 就寝前の食事

  • 喫煙

  • 肥満(腹圧の上昇)

こうした要因を減らすことで、逆流性食道炎の悪化を防ぎ、結果的にバレット食道の進行を抑えることができます。とくに体重管理食後すぐに横にならない習慣は、日常生活でできるもっとも基本的かつ効果的な対策です。

 

まとめ:バレット食道は「気づくこと」が第一歩

バレット食道は、静かに進行し、がん化のリスクを持つ厄介な病変です。しかし、その多くは逆流性食道炎の延長線上にあるため、早期の段階で発見し、適切な治療と管理を行えば、がんへの進行を予防できる可能性が十分にあります。

胸焼けや呑酸などの不快な症状が続いている方は、年に一度の胃カメラを検討することが、自分の体を守るきっかけになります。そして、バレット食道と診断された方は、「がんになるかもしれない」という不安を抱えるだけでなく、医師とともに定期的に向き合っていくことで、日常生活に支障なく長く付き合っていける病気でもあります。

今ある症状と、これからの健康。どちらも守るために、自分の体のサインに耳を傾けてみてはいかがでしょうか。

 

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