- ホーム
- 疾患から探す:ピロリ菌
ピロリ菌とは
ピロリ菌(正式名称:ヘリコバクター・ピロリ)は、胃の粘膜にすみつく細菌です。らせん状の形をしており、強い胃酸の中でも生きられるという特別な特徴を持っています。
この菌は、胃がんや胃潰瘍、十二指腸潰瘍などの原因になることが知られており、世界保健機関(WHO)からも「胃がんの発がん因子」として認定されています。
日本では、特に50歳以上の方を中心に、約半数の人がピロリ菌に感染しているといわれています。
感染すると、慢性的な胃炎を引き起こし、時間の経過とともに萎縮性胃炎に進行することがあります。これが将来的な胃がんのリスクにつながるため、感染がわかった場合は、早めに除菌治療を行うことが大切です。
若い世代では感染率が低下してきていますが、感染している場合は、将来の胃がん予防のためにも、早めの対処をおすすめします。
ピロリ菌の症状
ピロリ菌に感染していても、多くの場合は症状がほとんどなく、自覚しにくいのが特徴です。このため「沈黙の感染症」とも呼ばれています。
症状があらわれる場合は、次のような不調を感じることがあります。
- 胃の不快感や重さ
- 食後のお腹の張り
- 軽い胃の痛み
- 食欲不振 など
ただし、これらの症状は他の胃腸のトラブルでも見られるため、症状だけでピロリ菌の有無を判断するのは難しいです。
感染が長く続くと、胃の粘膜が傷んで胃酸の分泌が減り、消化不良が起こりやすくなったり、胃がんのリスクが高まったりすることもあります。
また、ピロリ菌が原因で胃潰瘍や十二指腸潰瘍を起こすこともあります。その場合には、激しい腹痛、吐血、黒っぽい便(タール便)などの強い症状が出ることがありますので、早めに医療機関を受診してください。
ピロリ菌の感染経路
ピロリ菌は、主に口から口、または糞口(ふんこう)感染を通じてうつると考えられています。多くは幼少期に感染し、特に5歳くらいまでの間に感染することが多いと言われています。
感染の多くは家族内での感染とされており、たとえば、同じお箸やスプーンの共有、食べ物の口移しなどが感染の原因になる可能性があります。とくにお母さんからお子さんへの感染が報告されています。
日本では上下水道の整備や衛生環境の向上により、若い世代の感染率は大きく減少しています。ただし、50歳以上の方の多くは衛生環境が十分でなかった時代に幼少期を過ごしているため、感染している可能性が高いとされています。
また、井戸水や不衛生な水からの感染も知られており、現在でも一部の国や地域では水を介した感染が課題となっています。
ピロリ菌の検査方法
ピロリ菌の検査方法は、大きく分けて内視鏡を用いる検査と内視鏡を用いない検査の2種類があります。それぞれに特徴があり、患者様の状態や検査の目的に応じて最適な方法を選択します。
内視鏡を用いる検査には、胃の組織を直接採取して行う迅速ウレアーゼ試験、組織鏡検法、培養法があります。迅速ウレアーゼ試験は最も一般的な方法で、採取した組織にピロリ菌が産生するウレアーゼという酵素があるかどうかを調べる検査です。結果は約1時間で判明し、高い精度を有しています。
内視鏡を用いない検査には、尿素呼気試験、抗体検査、便中抗原検査があります。尿素呼気試験は最も精度が高い検査方法の一つで、特殊な薬剤を服用した後に呼気を採取して分析します。抗体検査は血液検査により行われ、簡便で迅速な結果が得られますが、除菌治療後の判定には適していません。
便中抗原検査は便中のピロリ菌抗原を検出する方法で、除菌治療の効果判定にも使用できます。内視鏡検査を行わずに診断できるため、患者様の負担が少ない検査方法です。どの検査方法を選択するかは、患者様の症状や検査の目的、これまでの検査歴などを総合的に考慮して決定します。
検査方法 | やり方 | メリット | デメリット |
尿素呼気試験(UBT) | 尿素を含む薬を服用し、一定時間後に吐く息を採取。ピロリ菌が出す酵素の有無を確認 | ・感度・特異度ともに90%以上で正確性が高い・体への負担が少ない・除菌治療後の効果判定に適する | ・検査前後に抗菌薬や制酸薬の服用制限がある・事前に食事制限が必要な場合がある |
便中抗原検査 | 便を採取してピロリ菌抗原の有無を確認 | ・非侵襲的で簡便・除菌判定にも有効 | ・採便の手間がある |
血中抗体検査 | 採血でピロリ菌に対する抗体(IgG)を測定 | ・手軽でスクリーニングに有用・胃の状態に影響されにくい | ・過去の感染でも陽性になる場合があり、現在の感染状況が不明確・除菌後の評価には不適 |
内視鏡+迅速ウレアーゼ試験(RUT) | 内視鏡で胃粘膜を採取し、試薬と反応させてピロリ菌酵素活性を確認 | ・内視鏡検査中に同時に実施可能・結果がすぐに出る | ・内視鏡が必要(侵襲的)・局所的な感染では陰性になる可能性がある |
ピロリ菌検査の費用
ピロリ菌検査の費用は、検査方法や保険適用の有無により異なります。保険適用となる場合は、患者様の負担は大幅に軽減されます。
保険適用でピロリ菌検査を受けるためには、まず胃カメラ検査を受けて萎縮性胃炎の診断を受けることが必要です。萎縮性胃炎と診断された場合、ピロリ菌検査は保険適用となり、3割負担で数百円から千円程度の費用で検査を受けることができます。
胃カメラ検査を行わずにピロリ菌検査のみを希望される場合は、自費診療となります。抗体検査(血液検査)の場合は3,000~5,000円程度、尿素呼気試験の場合は5,000~8,000円程度が一般的な費用となります。便中抗原検査は3,000~4,000円程度です。
健康診断や人間ドックのオプションとしてピロリ菌検査を受ける場合も自費診療となりますが、多くの場合で通常の検査費用より安価に設定されています。また、一部の自治体では住民検診としてピロリ菌検査の助成を行っている場合があり、対象となる方は低い負担で検査を受けることができます。
ピロリ菌と胃がんの関係
ピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)は、胃の粘膜に慢性的な炎症を引き起こし、胃がんの発症リスクを大きく高めることが知られています。
国立がん研究センターの報告によると、ピロリ菌に感染している人の胃がんリスクは、非感染者と比べて約5〜10倍に上昇することが明らかにされています。
また、日本人約1,400人を8年間追跡した調査では、胃がんを発症したすべての人がピロリ菌に感染していたという結果も報告されており、感染していない人からの発症は1人も確認されませんでした。
なぜピロリ菌の除菌が必要なのか
ピロリ菌は、慢性的な胃の炎症を引き起こし、将来的な胃がんの最大の危険因子とされています。
このため、ピロリ菌に感染していることが判明した場合は、早期に除菌治療を行うことが非常に重要です。
実際の研究では、除菌によって胃がんの発症リスクが大幅に低下することが示されています。
2013年に発表された国際的な研究(Ma JLら)では、除菌治療により胃がんのリスクが44%減少したという結果が報告されています。
また、日本の多施設共同研究(Fukase Kら、2008年)でも、早期胃がんの治療後に除菌を行った群では、除菌を行わなかった群に比べて再発率が3分の1にまで減少したというデータがあります。
これらの結果は、ピロリ菌の除菌が、胃がんの「予防」だけでなく「再発防止」にも効果があることを示しています。
したがって、ピロリ菌感染が確認された方には、除菌治療を強くおすすめしています。
ピロリ菌の除菌方法
ピロリ菌が見つかった場合、薬による除菌治療を行います。現在の標準的な治療は、3種類の薬を1日2回、7日間服用する方法です。
治療の流れ
- 1次除菌
・1日2回、7日間連続で内服します。
・飲み忘れがないように注意が必要です。
・治療中に一時的な副作用(下痢、味覚異常、軟便、発疹など)が起こることがあります。 - 判定検査(治療終了後4週間以降)
・尿素呼気試験などの検査で除菌成功の有無を確認します。
・早く判定しても正確な結果が出ないため、必ず4週間以上空けてから行います。 - 2次除菌(1次除菌が失敗した場合)
・別の抗菌薬(メトロニダゾールなど)を用いた治療を行います。
・同様に7日間の内服と、その後の判定検査を行います。
除菌治療の成功率
現在の除菌治療は、1次除菌で約70〜80%の成功率があり、2次除菌を含めると95%以上の方が除菌に成功しています。近年では抗菌薬耐性の影響もあるため、定められた服薬方法を守ることが重要です。
除菌成功後の注意点
除菌が成功したとしても、すでに胃粘膜に萎縮や変化が起きている方は、胃がんのリスクがゼロにはなりません。そのため、除菌後も定期的な胃カメラ検査(1〜2年に1回)が推奨されます。
当院のピロリ菌診療の流れ
- 胃カメラによる評価と診断
-
胃カメラでの萎縮性胃炎の存在と、上記4つの診断方法にてピロリ菌の存在が確認されれば除菌の適応となります。
※健診などでピロリ菌陽性の場合
まずは胃カメラを行う事が必須となります。なぜならば萎縮性胃炎の存在+ピロリ菌感染が除菌の適応であり、萎縮性胃炎が証明されなければ除菌治療の保険が降りません。また、そもそも現在胃癌ができていれば除菌より先に胃癌の治療が必要となりますので、不安もあると思いますがピロリ菌感染の疑いがありましたら、是非一度胃カメラ検査を行ってください。
- 除菌治療薬の処方
-
除菌の適応がある場合、1週間分の内服薬を処方します。指定通りに内服を継続していただきます。
一次除菌療法
・胃酸の分泌を抑える薬(PPI)
・抗生物質(アモキシシリン、クラリスロマイシン)この治療で、約70~80%の方が除菌に成功します。飲み忘れがないように、しっかり服用することが大切です。
- 除菌判定
-
治療終了から4週間後に、当院では最も簡便な尿素呼気試験にて診断を行っております。
- 結果説明
-
約1~2週間後に、検査結果をお伝えします。
- 除菌成功後の注意点
-
除菌に成功しても、胃がん発症リスクが完全になくなるわけではありません。定期的な胃カメラ検査(1~2年に1回程度)が推奨されます。
- 二次除菌療法
-
一次除菌で効果がなかった場合には、抗生物質の一部を変更した治療を行います。こちらは90%以上の成功率が期待できます。
治療薬内服終了後4週間以降に尿素呼気試験を行います。除菌判定
治療終了から4週間後に、当院では最も簡便な尿素呼気試験にて診断を行っております。結果説明
約1~2週間後に、検査結果をお伝えします。※除菌成功しても、しなくても1~2年に一度の胃カメラ検査が推奨されます。
※治療中はアルコールを控える必要があります。とくに二次治療で使う薬は、アルコールと一緒に摂ると強い副作用が出ることがありますので、ご注意ください。
ピロリ菌除菌の費用
ピロリ菌の除菌治療は、条件を満たせば保険適用で受けることができます。保険適用となるためには、胃カメラ検査で慢性胃炎の診断を受け、その後のピロリ菌検査で感染が確認されることが必要です。
保険適用での一次除菌療法の費用は、3割負担で約5,000~7,000円程度です。これには薬剤費と処方料、指導料などが含まれます。二次除菌療法も同様に保険適用となり、費用は一次除菌療法とほぼ同額です。
除菌治療後の効果判定検査も保険適用となります。除菌治療終了から4週間以上経過した後に行う尿素呼気試験や便中抗原検査の費用は、3割負担で1,000~2,000円程度です。除菌が成功していることを確認するため、この検査は必ず受けていただく必要があります。
自費診療で除菌治療を受ける場合は、一次除菌療法で15,000~25,000円程度、二次除菌療法で20,000~30,000円程度が一般的な費用となります。ただし、保険適用の条件を満たしている場合は、まず胃カメラ検査を受けて保険適用で治療を受けることをお勧めします。
除菌治療に伴う副作用が現れた場合の対症療法や、除菌失敗時の三次除菌療法(自費診療)については、別途費用が発生する場合があります。治療前に十分な説明を受け、費用についても確認しておくことが重要です。