食道がんとは
食道がんは、食道の粘膜に発生する悪性腫瘍で、主に「扁平上皮がん」と「腺がん」の2つのタイプがあります。日本では特に扁平上皮がんが多く、中高年の男性に多くみられる傾向があります。食道は食物や飲み物が通る器官であるため、腫瘍が発生すると早期から飲み込みにくさや胸のつかえ感といった症状が現れることがあります。
早期には自覚症状が乏しい場合もあり、進行するまで見逃されやすい点が特徴です。しかし、近年では胃カメラ(上部消化管内視鏡)によって、早期のうちに発見できるケースも増えてきています。
食道がんの統計データ
日本における食道癌の有病率は、男性の悪性腫瘍の中で第8位であり、女性においては第12位です。死亡数においては、男性で第6位、女性では第12位となっています。食道癌の発症に関しては、年齢が上がるにつれて発症率が増加する傾向があります。また、男性の方が女性よりも発症率が高いことが報告されています。食道癌の早期発見と適切な治療が重要となりますが、日本においては食道がん検診の普及率も低く、発見が遅れがちです。
食道がんの症状
初期に見られる症状
食道がんの初期症状として多くみられるのは「食べ物が飲み込みにくい」「胸につかえる感じがする」といった嚥下(えんげ)障害です。特に固形物で違和感を覚えることが多く、症状が軽度なうちは「疲れているせい」「加齢のせい」と見過ごされがちです。
進行すると現れる症状
がんが進行すると、食道内が狭くなり、液体ですら通りにくくなることがあります。また、胸や背中の痛み、体重減少、食欲不振、吐き気、声のかすれ、咳といった症状が見られるようになります。がんが出血を伴う場合には、黒色便や吐血などの症状が出ることもあります。
食道がんの原因
食道がんの主なリスク因子は、飲酒と喫煙です。特にアルコール分解酵素の活性が弱い体質(いわゆる「お酒に弱い」人)では、飲酒によりアセトアルデヒドという発がん性物質が体内に蓄積し、扁平上皮がんの発生リスクが高まります。
そのほか、熱い飲み物や辛い食事の習慣、栄養バランスの乱れ、慢性的な逆流性食道炎や「バレット食道」なども腺がんのリスク要因となります。家族歴や高齢であることも、リスクを高める要素の一つです。
食道がんの診断と検査
食道がんの診断は、患者の症状や医師の診察結果に基づいて行われます。検査方法には胃カメラ検査、バリウム検査、CT検査が主に用いられ、それぞれが異なる目的で行われます。
胃カメラ検査
食道がんのほとんどが、胃カメラ検査で発見する事が可能です。
当院で使用している胃カメラにはNBI(Narrow band image)が搭載されており、食道がんはこのNBI撮影によりBrownish erea(茶色い領域)としてとらえる事ができます。
提示した写真は、左側が通常の胃カメラ画像、右側がNBI画像です。通常視でも異常は捉えられますが、NBIにすると正常な粘膜と腫瘍の境界が明瞭となります。通常視の画像の印象よりも実際には広い領域まで腫瘍が及んでいる事がNBI画像にて確認されます。
当院では胃カメラ検査を行う全患者様に、NBIを使用した観察を行っており、見逃しのない食道がんの拾い上げを行っています。
バリウム検査(消化管造影検査)
バリウム検査は、食道がんの診断にも利用される検査方法です。
バリウムという白い粉を飲み込み、X線撮影を行うことで、食道や胃の形状や状態を確認します。
食道がんが疑われる場合、手術などの治療前にこの検査で病変の位置や大きさ、進行具合を把握することができます。
ただし、早期の食道がんをバリウムで診断するのは非常に困難であり、病気を発見する能力では明らかに胃カメラに劣るのが現状です。
CT検査
CT検査は、食道がんが発見された際に、病変の進行度や転移の有無を調べる目的で行います。
大きな食道がんであれば、CTで検出されるのですが、早期のがんをCTで発見するのは不可能であり、診断の観点で行われる事は稀です。
食道がんのStage診断
食道がんのStage診断は、患者様の治療方法を決定する上で非常に重要な評価項目です。
食道がんは4つのStageに分類され、Stage Iは早期で癌が薄い範囲にとどまっているもの、Stage IVは転移が広範囲に及んでいるものです。
Stage診断には、胃カメラ検査、バリウム検査、CT検査などが用いられますが、患者様の状況や病変の位置によっては、PET検査やMRI検査が行われることもあります。
食道がんの治療法
治療は、がんの進行度や全身状態に応じて選択されます。早期の食道がんであれば、内視鏡による切除(ESD:内視鏡的粘膜下層剥離術)が行われ、身体への負担が比較的少なく済みます。
がんが粘膜下層より深く進行している場合には、外科的な手術や放射線治療、抗がん剤治療(化学療法)などを組み合わせた治療が必要となることもあります。特に進行がんでは、複数の専門科による集学的治療が検討されます。
当院では、胃カメラ検査により食道粘膜の異常を早期に発見することが可能です。精密検査や治療が必要な場合には、適切な高次医療機関と連携し、速やかに対応いたします。