高血圧の内服薬治療について徹底解説
目次
始めに
皆さんは高血圧の内服薬に関してどのような疑問をお持ちでしょうか?
- 本当に血圧を下げる薬を飲まなくてはいけないの?
- 初めて飲む降圧薬、何から始める事が良いの?
- 降圧薬は沢山種類があるけど、それぞれどのような特徴や副作用があるか知りたい
- 降圧薬の副作用が心配
- 高血圧内服治療の最新情報が知りたい
- 降圧薬を飲み始めたら一生飲み続けなくてはならないの?
このような疑問を解決できるよう、今回の記事を作成しました。
高血圧は無症状で進行し、放置すると脳卒中や心臓病などの合併症を引き起こすリスクが高まります。
本記事では、高血圧の内服薬治療について徹底解説します。具体的な治療法や降圧薬の種類、併用療法の効果、副作用についての注意点など、高血圧治療に関心のある方にとって必読の内容です。
高血圧の内服治療にご興味のある方は最後までご覧になって頂けますと幸いです。
高血圧の治療が必要な理由
高血圧は、長期間放置すると、血管に負担をかけて様々な合併症を引き起こす可能性があります。例えば、心筋梗塞や脳梗塞は動脈の狭窄や閉塞による血流障害が原因で起こりますが、高血圧があるとそのリスクが高まります。さらに、心不全は心臓の機能が低下し、血液の循環が悪化することで発症しやすくなります。
また、腎不全も高血圧の重要な合併症であり、腎臓の働きが低下し、尿生成が乱れると、体内の水分やリスク物質の排出が困難になります。こうした合併症は、突然の症状悪化や臓器障害を引き起こすため、適切な治療で未然に防ぐことが重要です。
高血圧治療の目的は、血圧を安定的に下げて動脈硬化の進行を抑制し、合併症のリスクを減らすことです。そのためには生活習慣の改善も欠かせませんが、それでも改善が見られない場合には降圧薬による加療が必須となります。
内服薬による高血圧治療の基本
降圧薬にはそれぞれ、適応、特徴、副作用があり、患者様の状態に併せた選択が必要となります。降圧薬の種類には、カルシウム拮抗薬、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)、利尿薬などがあり、それぞれを組み合わせながら治療を行います。
本稿では、それぞれの降圧薬の特徴についてお伝えして参ります。
降圧薬の種類と作用機序・副作用
降圧薬とは、高血圧を治療するための薬で、種類や作用機序が異なります。主な降圧薬には、以下のようなものがあります。
※お薬には一般名と商品名というものがあります。一般名は薬の有効成分(主成分)の名称であり、商品名は薬を発売している登録商標です。後発品(ジェネリック薬品)が増えたため、同じ一般名の薬でも様々な商品名のものとして販売されています。(同じ薬剤でも薬局が変わると薬の名前が変わったという経験がある方も多いのでは?)
カルシウム拮抗薬
製品名
- ニフェジピン(アダラート・アダラートCR)
- アムロジピン(アムロジン・ノルバスク)
- シルニジピン(アテレック)
- アゼルニジピン(カルブロック) など
作用機序
前提として、血圧は心臓や血管が収縮する時に上昇します。
カルシウムイオンは、血管にある平滑筋のカルシウムチャネルを通じて細胞の中に入り込むと、血管の収縮を促します。
カルシウム拮抗薬はカルシウムチャネルをブロックして血管の収縮を抑制し、血管を拡張させることで血圧を降下させます。
副作用
めまいや顔のほてり、頭痛、動悸、便秘などが挙げられますが、特徴的には最も使用される降圧薬で安全性が高い点が挙げられます。
相互作用
相互作用で注意が必要な食品として、グレープフルーツ(ジュースなども含む)があります。グレープフルーツを含むものと一緒に飲むと、血圧が下がりすぎる危険がありますが、さほど神経質にならなくとも良いと思います。
アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)
製品名
- ロサルタン(ニューロタン)
- カンデサルタン(ブロプレス)
- バルサルタン(ディオバン)
- テルミサルタン(ミカルディス)
- オルメサルタン(オルメテック)
- アジルサルタン(アジルバ) など
作用機序
血圧を上昇させるホルモンとして、『アンジオテンシンⅡ』があります。
アンジオテンシンⅡは血管を収縮させたり、腎臓に働きかけ水分が尿中に出ない様にして体液量を増やし、血圧が上昇するよう作用します。
ホルモンは受容体に取り込まれることで作用を発揮しますので、ARBはこの受容体への取り込みを阻害することで、血圧を低下される薬剤です。
副作用
副作用として高K血症が挙げられますが、それでも副作用は比較的少なく、安全に使える薬剤です。
特徴
日本でカルシウム拮抗薬に次いで2番目に多く処方されている薬剤です。
心臓保護や腎保護の効果が期待されており、心臓・腎臓機能の低下した患者様には特に積極的に使用されています。
アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)
製品名
- エナラプリル(レニベース)
- ペリンドプリル(コバシル) など
作用機序
血圧を上げるホルモンであるアンジオテンシンⅡの産生を抑制する事で、血圧を下げる薬剤です。
降圧作用はカルシウム拮抗薬やアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬と比べると高くなく、通常の高血圧治療においてはさほど使用頻度は高くありません。
副作用
空咳、高カリウム血症が挙げられます。
利尿薬
製品名
- フロセミド(ラシックス)
- スピロノラクトン(アルダクトン)
- トリクロロメチアジド(フルイトラン) など
作用機序
血圧は血液や体液量が増えると上昇します。
利尿薬は腎臓に働きかけ、塩分や水分を対外に尿として排出し、血圧を下げる効果があります。
副作用
脱水や低カリウム血症が挙げられます。
β遮断薬
製品名
- プロプラノロール(インデラル)
- ビソプロロール(メインテート)
- カルベジロール(アーチスト) など
作用機序
自律神経を抑制し、心拍数を減少させ、血管収縮を弱めることで血圧を降下させます。
副作用
心拍数減少があります。
また気管支喘息や慢性呼吸器疾患(COPD)をお持ちの患者様に使用すると、病状悪化の恐れがあります。
特徴
心拍数が早い若い人や心不全患者に用いられます。
他にもいくつか降圧薬はありますが、通常の高血圧診療においては出番が少ないため、ここでは割愛させていただきます。
各降圧薬の使用方法
最初に使う降圧薬は?
高血圧治療に最初に使う降圧薬は、高血圧ガイドライン2019に従って選択されます。
主な種類としては、
- カルシウム拮抗薬
- ARB(アンギオテンシンⅡ受容体遮断薬)
- ACE阻害薬
- 利尿薬
が挙げられています。
実際には降圧効果、副作用の少なさよりカルシウム拮抗薬かARBが最初に使われることがほとんどです。
これらの薬は、心不全や心筋梗塞、狭心症などの禁忌症によって選択が限定される場合もあるため状況に応じて降圧薬の種類を検討することとなります。
併用療法でより効果的な治療を
最初の降圧薬の効果が少ない場合、同じ薬を増やすよりも、異なる作用機序の薬を併用した方が降圧効果が高い事が証明されています。違う種類の薬を併用することで、効果が増強し、より効果的な治療が可能になります。
具体的には表のような組み合わさが推奨されています。
患者様それぞれの全身状態や合併症、心不全兆候の有無などで選択する降圧薬の種類が変わります。状況に応じて相談しながら使用する降圧薬を決めていきましょう。
配合薬の使用で、経済的にも安心
高血圧治療では、上述した通り降圧薬の併用が一般的ですが、費用負担が大きくなることがあります。配合剤を利用すると、複数の成分が1つにまとまっており、コストダウンが期待できます。
当院で良く使用する配合剤をまとめましたので、ご参照下さい。
降圧薬を止めるためにできる事
『降圧薬を開始すると一生止められないのが嫌だ!』という意見を多く耳にします。
確かに止められない方が多いのが事実ではあります。それは降圧薬を止める事で動脈硬化が再度進行すると、心筋梗塞や脳梗塞などの合併症が生じるリスクが上がってしまうからです。
逆に、動脈硬化の進行リスクが高くないと判断されれば、降圧薬を止める事ができます。ではどのようにすれば降圧薬を止める事ができるのか?
降圧薬を中止するためには、生活習慣の改善が必要です。運動や塩分制限を行い、そもそもの血圧を安定させる事ができれば、降圧薬を中止する事が可能となります。
具体的な生活習慣の改善方法につきましては、他の項目で詳しく説明をさせて頂きますので、そちらをご覧ください。
高血圧治療の今後と新たな展望
高血圧治療の今後は、より効果的かつ安全な治療法の開発が期待されています。新しい薬剤や治療法が研究されており、未来の高血圧治療はさらに進化することが予想されます。
例えば、新たな降圧薬の開発や、既存の薬剤に対する新たな知見が得られることで、副作用の軽減や効果の向上が期待されます。
また、高血圧の原因を特定し、個々の患者様に合わせた遺伝子検査や個別化医療による治療が進むことで、より効果的で副作用の少ない治療が可能になることも期待されています。
さらに、高血圧症を予防するための生活習慣や食事の改善、キャリアや家族のサポートなど、患者のQOL(生活の質)向上につながる取り組みも今後重要となります。
これからの高血圧治療は、総合的なアプローチを通じて、患者様の健康と長寿に大きく貢献することが期待されています。
最新の治療ガイドライン
高血圧のような主要な疾患には、治療のためのガイドラインが存在します。医学の進歩は目覚ましく、日々様々な研究が発表され、ガイドラインは数年に一度更新されていきます。
高血圧のガイドラインは2019年版が最新であり、恐らくここ1~2年ほどで新規ガイドラインが提唱されるでしょう。日々Up dateされる情報を患者様にお役立てするために、開業医もたゆまぬ努力が必要なのです。
新たな薬剤の最前線
そんな日々進歩する医療の中で、高血圧分野において最近話題となっている薬を2つご紹介いたします。
ミネブロ(エサキセレノン)
ミネブロは、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬という分類の降圧薬です。作用機序が特殊で、半減期が長いことから効果が長持ちし、降圧作用も高いです。ただし、副作用として高カリウム血症や尿酸上昇が起こることがあります。ミネブロは初回治療には向いていないため、他の降圧薬が効果不十分な場合に選択されます。
エンレスト(サクビトリルバルサルタンナトリウム水和物)
エンレストは、ネプリライシン阻害薬(サクビトリル)とアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(バルサルタン)の組み合わせで、ARNIという新しいタイプの降圧薬です。元々は心不全の治療薬でしたが、最近では降圧薬としても保険適応となりました。副作用には低血圧、高カリウム血症、腎機能障害があり、注意が必要です。エンレストは、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬を中止した後、初期治療が効果不十分な場合に使用されます。
これら2つの薬が保険適応(国に認められ実際に使用できる状態)になる前には、どの降圧薬を使用しても血圧が下がらず、治療に苦慮する患者様が一定数いらっしゃいました。これら2つの薬は高血圧治療の新たな一歩であり、高血圧診療の大きな助けになる事が期待されています。
さいごに:高血圧治療のまとめとポイント
高血圧治療においては、最新の治療ガイドラインに従い、患者さんが適切な治療を受けることが重要です。また、薬剤開発の最前線では、効果的で副作用の少ない薬の開発が進められています。
高血圧治療の成功には、医師や病院と密接に協力し、定期的な診察や血圧の自己測定、適切な薬の選択、生活習慣の改善が欠かせません。
現在の内服治療に不安のある方など、何か当院にお手伝いできることがあるかもしれませんので、お気軽に当院をご受診下さい。
最後までお読みいただきありがとうございます。今後もこのサイトを活用して、高血圧治療に関する知識を深めてください。
かわぐち内科・内視鏡クリニック
川口 佑輔
2010年北里大学医学部卒業
日本内科学会認定医 日本内科学会 (naika.or.jp)
日本消化器内視鏡学会専門医 日本消化器内視鏡学会 (jges.net)
日本肝臓病学会専門医 一般社団法人 日本肝臓学会 (jsh.or.jp)